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忙しいのは結構なことじゃがしかし。いよいよこれから、将軍様がばったばったと悪をなぎ倒そうという14時45分に、狙いすましたかのように連日仕事の電話を入れてくださるのはやめてくれませんかクライアント様ー。ミュートして見る殺陣なんて盛り上がらねえこと甚だしいんですが。
グレアム・ジョイス 著/浅倉久志 訳
カバー写真提供 PPS通信社
カバーデザイン 守先正+桐畑恭子
ハヤカワ文庫FT
ISBN4-15-020364-4 \840(税別)
嵐のさなか、妻ケイティーは死んだ。嵐によってなぎ倒された木が、たまたま彼女の車を直撃する、というあまりにも不条理に思える原因で。それを境にケイティーの夫、トムの心の中に妙なしこりがうまれてくる。英国でのそれなりに平穏な教師生活を続けることにこれ以上耐えられないものを感じたトムは、仕事を辞めてエルサレムへ赴くことを考える。そこは生前のケイティーがしばしば訪れたいと漏らしていた地だったのだ…
四度英国幻想文学賞に輝いているという大変な経歴の作家の、これが日本における初めての単行本。ユダヤとアラブが複雑に入り交じり、過去と現在もまた、解ききれない絡まりとなって小さな路地裏にまで澱となってよどむエルサレムという街を舞台に、ひとつの愛の死に直面した人物が、死んだ愛のよすがを求めて下りたった異境で、別れたはずの愛と、分かちがたく、しかし表にはしたくない自らの秘密が精霊(ジン)という不可解な何かとの関わり合いという形で次々と眼前につき出され、そのたびに崩壊の度合いを深めていく主人公、さらにそこに「死海文書」にまつわるミステリがこれまたねっとりと絡みついてくる、という実に英国系の作家らしい念入りな昏さと、血と愛液のねとーっとした感じにまみれたダーク・ファンタジィ。
「エヴァ」なんかでもネタにされてる死海文書だけど、本作ではあくまで、真実と思っていたことが実はその裏にもうひとネタあって、そのネタを暴くとまたさらに新しい謎がうまれて…みたいなこのお話の構造のバックボーンを支えるような役割に徹しててそこは好印象。あくまで本作は、過剰なまでの罪悪感を抱え徹し待った何人かの登場人物たちが自分の立ち位置をもう一度見つけ出すことができるのか、見つけ出せるとしたらそのきっかけはなんなのか、あたりに焦点を絞ってお話が進んでる感じで、それはかなり私好み。ちょっとニュアンス違うけど、私の大好きなゴダードの作品の主人公たちの持ち味にかなり近いモノを、本作の主人公トムは持っているように思える。ゴダードが暴かれていく事実を元に主人公に再起を促すところを、ジョイスは三大宗教のうちの二つのそれの聖地であるエルサレム、というロケーションの特異性が産み出す(昏く、重い)ファンタジックな現象でキャラクターの行動原理に上手いバイアスをかけている、といえるかな。エルサレム、って舞台で「また神様かよー」と思いつつ読んでいくと、実はこのお話、神様もわかるけどあくまで自分をしっかり持とうよ、みたいなところに落としどころがあるお話に思えて、そこも私好み。昏く、重く、ねとつく淫靡さに満ちた世界だが、たまにはこういうのも悪くない。そもそもオレにハヤカワFTを読もうと思わせたんだから、その時点でたいした物だよ(^^;)
ファンタジーと聞いて剣と魔法(のみ)を期待する人にはちょっと辛いかも知れないけど、たとえばピークの「ゴーメンガースト」やムアコックの「グローリアーナ」も、ダークな魅力に充ち満ちたファンタジーだよな、と思える人ならお奨めかも。さすがに私もこの方の作品に今後もついて行けるかどうか、ちょっと自信はないですけど(^^;)。ということで本書のお気に入りの一節を。
「え、まさか? あなたは自分の苦悩と恋におちたんですか?」
「そうなったのはわたしだけだろうか?」
実はこの、"自分の苦悩と恋におちる"ことの、(禁断故の)甘美さこそがこのお話のテーマなんだろうな、などと思ってしまったことでした。
(★★★)
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