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ロバート・B・パーカー 著/菊池光 訳
カバーフォーマット 辰巳四郎
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫HM
ISBN4-15-075684-8 \780(税別)
依頼人はスーザンだった。彼女の別れた元夫がトラブルに巻き込まれている、という。20年にわたって連絡の無かった元夫、ブラッドはその姓をシルヴァマンからスターリングへと変え、今は一種のプロモーターとしてイヴェントのプロデュースなどに携わっているらしい。そんなイヴェントの一つで、ブラッドはイヴェントの参加者の女性たちからセクハラ容疑で訴えられているというのだ。だが当のブラッドにはその訴訟を真剣に受け取っていない節がある。訴訟を起こした女性たちの一人の夫は、刑事事件を担当させたら無敗と言われる辣腕の訴訟弁護士だというのに…。調査を開始したスペンサーだが、何も、そして誰もが肝心なことに関して、口が重くなっていることを知っていく。全幅の信頼と愛情でつながっていたはずのスーザンまでもが…。
おおう、今回も「アン・ハ」が出てこないぞ。一体どうしたことだ。その代り今回は「フム」が多用されている。これで次回作でスペンサーやホークが「フムン」、とか口走っちゃったらどうしよう(w。
さてお話の方は、あらすじでも触れたとおりスーザンの元夫が巻き込まれたらしいトラブルの解決を、なぜか夫、直、ではなくスーザンがスペンサーに依頼する、という妙に奥歯に物の挟まった感たっぷりなイントロで幕を開ける。今回のお話の見どころは、じつはこのスーザンの行動にも見て取れるのだけれど、スーザンってほんとのところどんな女性なの、が、元夫が巻き込まれたらしい事件を調べていく上で見えてくる情報を挟みながら、ややいつもとは勝手の違うディスカッション(もちろん、これは『スペンサー』なのだ。つかず離れずのディスカッションは必須です)を重ねていく過程で見えてくるあたりにある。いつものようにミステリ味は少なめ。
まあ誰もスペンサーに、あっと驚くトリックの謎解きなんか期待しちゃいないだろうから、それはそれでいいんですけど。無理矢理好意的に解釈するならば、このシリーズの面白さってのは、ルパンⅢ世的「おとこのぉー、びぃがぁくぅー♪」を、毎回中年男女が「俺達、間違ってないよな」って再確認するところにあるわけで、今回のお話はその辺、かなりうまく行ってたんじゃないかしら。解説でミステリ書評家、の穂井田直美さんって方が"シリーズきっての異色作"とマクラを振っておられるけれど、個人的にはそないに立派なものでもないと思う。いつものスペンサー。絡んだところにちょっといつもより恋愛成分が多めだっただけ、なんじゃないかいな、って気はしますな。
ただ、無駄口うだうだの面白さが実はスペンサー物の真骨頂であるとするならば、この作品は決して悪くない出来だと思う。前作もそうだったけど、「男の美学」(やや独善的)に水を差すのは常に"子宮"なのだ、ってあたりは結構示唆に富む物があると思うですよ。お話の構成的にもしっかりしていて好印象。総じて「佳品」と言って上げていい作品だと思ったです。
それにしてもスペンサーがパソコンの前に座る日が来るとはね。座ってもなにも好転したりしないのは予想通りなんだけど。ただ、きっとホークは、実はしっかりパソコン使いこなしているんだろうなあと思ったです。
(★★★)
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