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北野勇作 著
カバーイラスト 西島大介
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030806-3 \660(税別)
かつて戦争があって、そして戦争は終った、らしい。戦争のさなか、街の真ん中に「それ」が出来ていた。半径5キロメートルほどの、灰色のドームでおおわれた場所。そこに入るためには、人は自らが持つ何かを犠牲にしなくてはならない。でも、そんな世界でもなぜか、人間は生きていけるみたいだ。足りない記憶と折り合いをつけたり、時には頑張って何かを思い出そうとしたり、そうそう、なんだか良くわからないけれど"人工知熊"、と呼ばれる乗り込み型の作業機械といっしょに仕事をしてみたり。そんな中、見えてくるのは、この「世界」が、目に見えるものがすべてというわけではなく、目に見える者が実はもう見えるはずのないモノであったりするわけで……
かめが来てイカが来てクラゲも出て来てザリガニもいる。んで今度は熊とアメフラシ。なんだけどこの作品、今の時点で最後に出てきた本だけれども、実はその原型は、北野勇作のデビュー作になっていたかも知れないモノであったのだそうな。あくまでテーマであったりモチーフであったりがそう、ということなのだけれど、とにかく北野勇作が書きたかった世界って言うのはこれなんだな、って言うのが何となく見えてくるような気がする。それは、不思議で、それなりに居心地がよく見えるのだけれども実は、皆があきらめちゃっている世界。
北野勇作ワールドのキー・ワードって、実はあきらめ、というか諦観というか、なんていうんだろう、なんか納得できないけれどもこれはこれでしょうがないよね、な世界なのかな、という気分をかなり強く持ってしまった。こう、それマズいじゃん、な世界が目前にあるんだけど、でもそれってオレらでどうこうできるような状況でもないし、そんな、劇的に悪い世界になるわけでもないんだから、ちょっとのガマンで折り合いつくんだから、まあそれはそれで良いじゃん、と思っておこうよ、な世界。
その妙に悟った枯れ具合は、今の世の中においてそれなりに心地よく、かつこれを読むことで何となく問題意識みたいなモノも微かに自分の中に持てたような気もしてくる、ってあたりに北野ワールドの存在価値ってのがあるのかも知れない、とは思った。オレたち、みんな今の世の中が問題抱えた世界だって事は判ってる。判ってるけどそれに対して有効な行動が取れないでいる。そのことは淋しいし、時によっては辛い。でも、決して見落としてるワケじゃないんだよ、いろんな問題があるのは判っているんだよ、だけど今はそれに対して今の自分の立場では何もアクションを起こせないの。起こせないけど気持ちの中で無視しているワケじゃないの。そのことを判って欲しいの…、と考える読者にとって彼の作品はすばらしく甘い読後感を残してくれているのじゃないかなあ、なんて考えてしまった。
別に年中シビアでなければいけない、なんてことは思わないけれど、少なくともその本質において、もうちっとシビアであるべき世界に「まあそれもしょうがないか」感を持ち込むのが北野SFのスタイルであり魅力でもあるとは思うのだけれど、うーんどうでしょ、わたしゃやっぱり古い世代なのかな。この世界観の根っ子を元にした、「神狩り」の頃の山田正紀SFが読みたいなあ、と正直思った。「どーなつ」に罪はない。でもいろんな意味で淋しくなる(出来が悪いから淋しくなる、ということでは断じてないのでそこは念のため)この本とは違う本を、オレは読みたかったな。
(★★★)
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