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鏡明 著
カバーイラスト L.O.S.164
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
創元SF文庫
ISBN978-4-488-72701-7 \880(税別)
世界はおおむね理想的な方向に向いて進んでいるように見えた。天才的な科学者が開発したタイムマシンとそれを効果的に運営する一人の人物。唯一のタイムマシン、"ワンダーマシン"とそれを管理する、この世界最高の権力者、タイムズ・コーポレーションの総帥、エドワード・プライス。彼のコントロールの元、世界は常に微妙にその有り様を変えている。確かな物が何もないこの世界で、ある意味最もあり得ない職業が私立探偵。そんな稼業に就いているのが俺、ノーマン。今は消え失せているが、かつてはあったらしい東洋の島国出身の俺は、それしかできないからしがない探偵稼業で日銭を稼ぐ日々。そんな俺の元に依頼を持って訪れたのは、あろう事かこの世界の陰の権力者、エドワード・プライスのエージェントだった……。
超革中の大きい方、鏡明氏は長年SFの世界でさまざまな文章を発表し、時に物議もかもしたりしているけれど、小説という形で発表された作品は意外なほど少ない。で、本書はそんな数少ない鏡明のまとまった小説作品。タイムマシンの存在で、確かな物が極端に少なくなってしまっている世界で、曲がりなりにも「答え」を探す探偵という仕事が果たして成り立つのか、というのが近い方のテーマ、時の流れ、と言う物があった時に、それはいったい誰、または何がそれを決めるのか、と言うのが陰に隠れた大きなテーマ、と言えるかも知れない。ディック的、とも言えるし神林的、とも言えるか。そういえば本書が初出の頃って神林長平の名前が注目されてきた時期と微妙にかぶっているかも。「オレってホントにオレなのか」、または「オレでいるって言うことは突き詰めて考えたらどういう事なのか」、ってあたりを考えるのが流行っていた時期だったのだろうか。
んまあ、そういう裏に潜んだテーマの大きさはさておいて、お話自体はどっちかというとダメ人間な方なんだけど、こと世の中の影の方に隠れた物を探り出す嗅覚に優れた人間の、ややほろ苦いサスペンスシリーズの連作短編として楽しく読んでいける。マンガにするなら谷口ジローでやって欲しい感じだな。結構考えさせられるテーマを内包しつつ、ノリとしては「事件屋稼業」的面白さでサクサクと読んでいける。エンタティンメントとしても上出来の一冊。
ただ、やはり鏡明という人は天才なのだな、と思ってしまうのは、前述したような面白さにあふれた一冊になっていながら、どこかに「投げた」感も漂ってくるあたりかな。本書で言うなら、主人公の俺、ノーマンは元は日本人で、彼の故郷である日本は何らかの理由でごにょごにょ、な状況になってるのだけれど、その部分、ひいてはノーマンの特異性についても、語れば語れたと思うし、そこはもう少し突っ込んで欲しかった様な気がしないでもない。これはこれでまとまっているけど、脇を固めるって意味ではもう一声、ページを割いて欲しかったような気もするのだな。このあたり、天才故に「ここはもういいや」的に書き込みをサボっちゃったんじゃないかな、みたいな印象をちょっぴり持ってしまったりもするのだった。ここにもう少し深い突っ込みが入っていたら、文句なしにすごい作品になってたんじゃないかなあと思ったりもして。そこらをさらりと投げちゃうあたりに、天才肌ならではなお話作りがなされている理由があったりもするのかも知れないけれどもね。
★★★☆
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小説でも映画でも漫画でも、受け手をある意味見くびっているとしか思えないぐらい親切過ぎるモノが多い昨今、おっしゃる通り天才肌のこれは小気味良かったです。ハイ。<br><br>何故かいまごろ創元の復刊フェアでブラウンの「宇宙をぼくの手の上に」を<br>読んでしみじみしていたりする今日このごろ。