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2008-08-30 [長年日記]

[Books] フリーランチの時代

フリーランチの時代(小川一水/著) 小川一水 著
カバーイラスト 橋本晋
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-030930-5 \660

一瞬の気のゆるみだった。だが宇宙ではそれは致命的なミスになりかねない、というか、致命的だった。にもかかわらず宇宙服と自分の身体に大穴を開けた状態で火星に横たわっていた三奈は生きていた。いや、正確には…。表題作他四編を収録した短編集。

いやむしろ「ランチフリーの時代」なんじゃないかという突っ込みは措いといて。「時砂の王」と同じ世界でのエピソードを描く書き下ろしを含む短編集。帯に曰く、「僕たちの幼年期の終わりがやってきた!」。やってきてねーよ、せいぜい「ニート期の終わり」だろうがよ、などと思ったりもするが、別に小川一水が悪い訳じゃないのでそこはおとなしくしておきます。てことで収録作品について、簡単に。

フリーランチの時代
腹ぺこなオーヴァーロードと遭遇しちゃった地球人類のお話。「幼年期の終わり」が基本的に「外に向う」流れの中で発生したコンタクトだったとしたら、こちらはひたすら「内にこもる」ことに一生懸命な人類とオーヴァーロードが遭遇するような話。楽しく笑える話だが、これに「幼年期の終わり」を関連づける神経は判らん(やっぱり蒸し返すんかい)。作者に責任はない話だけど、この程度であなたの「幼年期」は終わりにしちゃって良い話なんですかね? なんてな。
Live me Me.
不死性を含めた新しい「種」として、いわゆるメドテクがどのくらいその有効性を主張できるんだろうか、と言う話として読んだんだが正しいでしょうか? 序盤の「テク」の部分の積み重ねは読み応えあり。あまりに脆弱なインフラ(他ではあんなに考えてたのに肝心なところがそれかよ、的印象はある)がお話に波紋を投げかける後半に少々違和感と急いだ感じがあってそこが残念。
Slowlife in Starship
天翔けるヒッキー、スローライフから解脱するきっかけを得る、みたいな。メリもハリも、ヤマもない話なんだがちょっと好き。
千歳の坂も
昭和な香り。そこはかなり良い感じなんだが、追うものと追われるものの根っこにあるものが何なのか、ってあたりが今ひとつ明確になってなかったか。それがゆえにラスト付近のいろんなものの変貌が、少々唐突に過ぎるような印象があったかも知れない。
アルワラの潮の音
「時砂の王」と同じ時系列の作品。基本的に負け戦を続ける戦士たちが出会う人びとのお話なので、お話を支配するのは哀しさ、と言うことになる。そこは外していないので良いお話になっているとは思った。「時砂」のシリーズはバリエーションがいろいろ作れそうなので、これからも時々書いて欲しいな。

全体に抑えめの作品が多かったように思える。他の短編集の中で、ちょっとテンション押さえるために用意される、ややおとなしめな作品ばかりを集めた短編集、と言う印象を持った。個々の作品がどうこう言う前に、この編み方は無かったのじゃないかな、とは思ったな。

★★☆


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