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ジャック・キャンベル 著/月岡小穂 訳
カバーイラスト 寺田克也
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011686-6 \840(税別)
救命ポッドを回収され、コールドスリープから目覚めた時、100年が経っており、そして戦争はまだ続いていた。自らが属するアライアンス陣営の艦隊に救出されたのは不幸中の幸いだったが、艦隊は今、100年来の宿敵であるシンディックの艦隊との会戦で惨敗し、無条件降伏か全滅かの瀬戸際にある。この危機的状況で、艦隊司令は最後の休戦交渉のために敵艦隊の旗艦に赴くことを決意する。後のすべてを100年ぶりに目覚めた男に託して。
男の名はジョン・ギアリー。100年前に彼を救命ポッドに押し込むことになった戦いにおいてアライアンス側に多大な貢献をしたが故、自らがあずかり知らぬ賞賛を受け、"ブラック・ジャック"の二つ名付きの軍神扱いをされる羽目になっていた男だったのだ…。
最近妙に流行ってるミリタリイSFにまた新手が。今回は「バック・ロジャース」風味を混ぜ込んでみました、な感じか。永井の豪ちゃんのマンガにもあったよね、タイムリープで未来に行ったらば、科学文明が発達しすぎてあまりに軟弱になっちゃった未来人の中に飛び込んだ現代人は、その時点でスーパーマン確定、ってヤツ。本書ではギアリーがコールドスリープ状態になってる100年の間に、敵も味方も際限のない消耗戦を繰り返してきたおかげで、経験を積んだ軍人がどんどん失われてしまった結果、艦隊戦がまるで源平の合戦の一騎打ち状態の寄せ集めみたいな状態になってしまってて、戦術も戦略も全く蓄積されない状態での泥仕合が長々と続く羽目になってしまっている状況下で、それなりに先人と自分なりの経験を叩き込まれた職業軍人が一人追加されるとどうなるか、ってのがこのお話のキモ。で、そこがかなり考えられてるんでなかなか楽しめる。
消耗戦が長期にわたった事で、過去の戦術や戦略を具体的に現場に反映出来る人材がいなくなってしまったために、軍人たちがある意味個人主義的方向に走っちゃってる時代(共に硬直しまくった大日本帝国対ソ連邦の戦いの図式みたいで、結構笑える)とか、アンシブルみたいなガジェットはとりあえず無し、としたことで通信関係でタイムラグが発生する、ってあたりの縛りが上手い方向に作用しているとは思う。あとはなんだ、解説の鷹見一幸氏も大ウケしてる、"ブドウ弾"とか、ああそこを狙ってますか的なサービスぶりがちょっとうれしいようなこっぱずかしいような感じ、か。オレもいつ、「ミサイルを二段装填で」とか言い出すかとちょっと期待しちゃったもんな(w。
帆船モノの海洋冒険小説好き、ミリタリイSF好きならかなり楽しめる。その上で続きへのヒキもさりげなく入れてくれてるあたりもちょっと好印象。アライアンスとシンディックの戦争の根本的な理由のところにさらにもうひとネタ、SF的仕込みがありそうな感じで続編が楽しみではありますよ。
★★★☆
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