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カリン・ロワチー 著/嶋田洋一 訳
カバーイラスト 佐伯経多 + 新間大悟
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011718-4 \1000(税別)
「もっともホットな独身貴族」それがライアン・アザーコンにまつわりつくレッテル。高名な軍人にしてアースハブ政府の重要人物の祖父、同じく政府の有力者である母、そして父は深宇宙で活躍する戦闘輸送艦<マケドニア>艦長。高い家名は莫大な財産と特権を彼に与えたが彼が真に望むのはそれとは別のものだった。満たされない思いはあらゆるものへの不満となり、ライアンは日々をただ自堕落に過ごすばかり。今日も若者たちが集まるフラッシュ・ハウスへ気晴らしに出かけたライアンだったが、そこで思いもよらない事件が発生し、そこからライアンの人生は大きく動き始めることに…。
前作「戦いの子」での時間の流れを引き継ぐ形で語られるお話は、前作の中盤以降、主人公であったジョスが暮らす戦闘輸送艦の厳格な艦長、カイロ・アザーコンの息子が主人公。あらすじでも軽く触れたけれど、いかにも金持ちのワガママなボンボンであるライアンが、家名が引き起こす危機的状況に直面し、さて自分を鍛え直していけるのか、というのがお話のキモになる。望むもののほとんどを手に入れられるんだが、自由とやすらぎだけが得られない若造は、その苛立ちから自堕落な行為を繰り返し、さらに自分をがんじがらめの状態に追い込み、常に自分の望みと逆の結果を引き出してしまいさらに苛立つ、と。
そんなライアンがとある事情で父の宇宙船に乗り込み、それまでしたことのない経験と出会いを積み重ねていくことで、少しずつ成長していくのがこの物語の骨子になるんだが、ワガママ放題で育った金持ちのボンボンの成長スピードは極めてゆっくりで、そこに少々いらつきを感じるかも知れない。本人がここまで歪んでしまったことにもそれなりの事情があり、同情すべきところもあるし、そこを分ってこのお馬鹿さんに辛抱強くつきあってくれるキャラクタなども配置され、読んでいけば「まあコイツはこうでもしかたがないかな」とも思えてくるんだけれども。
前作の主人公、ジョスや<マケドニア>のクルーたちや異星人たちも顔を見せ、それなりに重要な役割を果たしはするが、キモはやはりアザーコンという家の家族たちの繋がりを再確認していく物語。その物語自体は決して悪くはないと思うが、前作以上にSFならでは、なシカケなども登場せず、SFとしてのワクワク感はそんなにない。あとは登場人物たちの心情を追っていくのが楽しいかどうか、ってところで評価は変ってきそうだな。自分はまあ、これはこれでありかな、ってところでしょうか。若干落とし所に不満が無くもないけれど。
このシリーズには続きがあり、前作、本作でもちょっと登場していた3人目の子供で、ジョスと同じく海賊に捕らえられ、海賊として育てられたがジョスのように途中で海賊のもとから逃げることをしなかった若者、ユーリが主人公になる。不幸な子供の話、難儀な子供の話ときて、さて3作目はどんな子供の話を読ませてもらえるんでしょうな。
★★★☆
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