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2010-03-18 [長年日記]

[Books] リックの量子世界

リックの量子世界(Ambrose,David/著 渡辺庸子/翻訳 アンブローズデイヴィッド/著) デイヴィッド・アンブローズ 著/渡辺庸子 訳
カバーイラスト 瀬戸羽方
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
創元SF文庫
ISBN978-4-488-73501-2 \960(税別)

やりがいのある仕事と深く愛し合う妻子、信頼できる友人…。小さいながらも高評価を得ている出版社を経営するリックの人生は充実していた。そんなリックは今、そのキャリアの中でも小さくはない、新しい一歩を踏み出すことになるであろう一日を始めようとしていた。だが、そんな特別な日は、その始まりから不可解で不吉なことばかりが立て続けに起こる。不吉な気分を振り払い、新たな出資者たちとの契約締結の場に向かったリックだったが、その場で押さえようもない焦燥感に支配され、重要な会議の場を飛び出して車を走らせる。闇雲に走らせた車がリックを誘ったのは、交通事故に巻き込まれた妻の姿だった。

そして途方もない絶望で遠のいた意識が戻ってきた時、リックは自分が「妻の交通事故の現場」ではなく「自分の交通事故の現場」にいることに気がついて…

映画「ファイナル・カウントダウン」などの脚本も手がけた著者の、小説家としてのこれがデビュー作と言うことになるのだそうで。とはいえすでに何冊かの著作は訳出されている。「そして人類は沈黙する」ってタイトルには何となく聞き覚えがあるんだけど、読んだかな、どうだったかな…。

お話の根っこにあるのはタイトル通り、量子論的並行宇宙を背景に、不可思議な体験をする男の物語。妻の死を目の当たりにし、その現実を受け入れられないという強い気持ちが人間の精神のみを並行宇宙の別の時間線に飛ばし、その世界にいる自分(リチャード)にこちらの自分(リック)の魂を同居させてしまうことになってさあどうなる、と言う話。カバー裏の惹句に曰く、異色作家がディック的悪夢世界に悪夢世界に論理的構成で挑んだ野心作とあるが、で、確かに本書の後半部分は確かにディック的な、救いのない悪夢の連続があるのだけれど、それ以上に印象的なのは、1993年初出とは思えないくらい、クラシカルにまとまった構成。ディック的と言うよりはむしろ、ブラウンとかブリッシュあたりが60年代にふふんと書いたお話、でも通るんじゃないかと思えてしまう。

当然、タイトルにある「量子」の扱いもあくまで作品世界を補強するための黒子であって、量子論的宇宙や世界が、お話の中で登場人物たちの行動に大きな影響を与え続けるようなものではない。ある程度ハードSFに寄った作品を期待すると肩すかしを食らうだろう。逆に自分みたいに、読む前に「また量子論かぁ、難しいのはイヤだなあ」なんて気分で読み始めるとあら不思議、なんだかサクサク読んでいけちゃうわ、ってなモンでね(^^;)。

ディックの作品ほど壊れていない、ある意味端正とも言える構成で、作家のお話づくりの技巧をじっくり楽しめる一作。SF的アイデアの斬新さと言うより、SF的なアイデアを物語の中でどう展開し、まとめていくか、お話づくりの巧さを堪能するような小説。ある意味極めて古風なお話と言えそうな気がする、だがそこがいい、って感じでしょうかね。

文句をつけるなら邦題かな。原題は"THE MAN WHO TURNED INTO HIMSELF"。「我に返った男」とか意訳したら間違った認識になるんでしょうかね。東浩紀氏の「クォンタム・ファミリーズ」が話題の昨今、ここは「量子」押しで行こう、みたいな戦略があったのかもしれないけど、ちょっとこの邦題は違うような気がするな。

★★★☆


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