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桐生裕狩 著
カバーイラスト 笹井一個
カバーデザイン 岩郷重力
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
ISBN978-4-15-208581-8 \1800(税別)
おれの名は三神伸治。だが誰も俺をその名では呼ばない。大学時代の文芸サークルで使っていたペンネーム、「外道」を縮めた「げど」が今の俺の呼び名だ。普段は三流以下の広告屋の冴えない従業員である俺だが、ちょっと普通の人間とは違ったところがある。眠りに落ちると、これまでに出版された本の作品世界へ入り込み、その世界で行われている事象に干渉する力があるのだ。そんな俺に小説世界の側から付けられた渾名は「小説探偵」。今日も俺のもとには、小説世界での境遇を憂う登場人物がやってきて、厄介な頼み事をしてくるのだった…。
軽石庵さんからハヤカワJコレ借りて読もうシリーズ(になるのか?)第2弾。良くできた物語ってのは良く、「キャラクターが勝手に動く」なんて作家に言わせたりするけど、実は小説のキャラクターたちってのは、ほんとに勝手に動く余地を持って小説世界に暮らしている、って設定がちょっと良い。出来の悪い小説の登場人物として創出されてしまったばっかりに、作家の筋立ての拙さから自分に矛盾を抱えてしまう登場人物、なんてのはなかなか面白いし、不遇な登場人物には同情もしようって物で。ほんとに小説探偵なんて人がいたら、何とかしてよって依頼は引きも切らないんじゃないかしら(w。
伝奇、時代、ミステリ、ホラー、ファンタジーなど、様々なジャンルの小説に登場するキャラクタが持ち込む依頼をこなしていく「げど」が、その中で自らの記憶に失われた個所があり、そこには「げど」と彼の周りの人々を巻き込む大きな何かがあることが分かってきて…ってお話。
ジャンル小説の世界のお約束や、現実に存在する小説から引っぱって来るくすぐりがうまい按配な上に、「げど」を取り巻く登場人物達が大変魅力的で、非常に自分好みなエンタティンメント。お話が大きくなっていくにつれて、魅力的なサブキャラさんたちの出番が減っていくのがちょっと残念ではあるのだけれど、連作短編でお話に盛り上がりを作って行くにはこうせざるを得ないのだろうけど、お話の本筋の盛り上がりとは逆に、サブキャラたちの芝居を楽しむ、って部分が削られてしまうのはちょっと残念だったかな。前半はかなりニヤニヤ、後半はちょっとだけ失速感を感じつつ読んでいった。とは言え充分楽しめました。こういうのはかなり好きだし、まだヒキもちょっとあるので続編を期待したいな。
そんなお話本体部分の面白さとは別のところ(や、お話にも充分深く関わっているとも言えるのですが)で非常に興味深いのが、著者、桐生裕狩さんの児童虐待というか、虐待されていると思われている子供たちへの視線。虐待というかネグレクトというか、とにかく(オトナ視点から見た時に)幸福とは言えない子供たちが彼らなりの立ち位置を確固たる物にするためには、子供たちはどうあるべきなのか、ってあたりの思想的な部分がかなり過激で、理屈の上では「それもアリだな」と思える物になっていつつも、やっぱ凡人である自分なんかは「子供にそこまでさせて良いものなのかなあ」と思ってしまうのも確かなところで。たぶん本書後半の失速感ってのは、この、著者のメッセージ性的な物がかなり前に来ているから、てのも理由の一つになるのだろうと思う。
「ゆかり」と言うお名前や著者あとがきなどを読んでみるに、桐生裕狩さんって方はたぶん女性なのだろうと思う(それも結構びっくりだ)けど、女性故のどこか思いきりの良さみたいな物がこの過激さに反映されたって事なんでしょうか。正直オッサンにはいろんな意味で辛い描写なんだけど、これをあっさりスルーすることもまた、本読みとしては誠実ではないよなあとも思えるわけで、そういうところの引っかかり感もまた、本書の味なんだろうな、とは思った。
★★★☆
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