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林譲治 著
カバーイラスト 長谷川正治
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
ISBN978-4-15-208848-2 \1700 (税別)
日本が総力を挙げて作り上げた世界最高速のスーパーコンピュータ、MMISはその台風の危険性をあまりにも低く見積もっていた。異常気象が頻発する2036年の日本、台風7号は北海道に甚大な被害を与えて消滅する。だが、これによってMMISの有効性に対する出資者達の疑問は消滅しない。同じ頃、阪神北市ではカルト団体を追っていたジャーナリストが行方不明になり、遠くスマトラ沖に日本主導で建築中の巨大メガフロートでは、一人の古生物学者が突然消息を絶つ。一件何の関係もない三つの事件。だがそれぞれの真相を追っていく人々の前には、一種の優生人類による世界の再構築を標榜するカルト集団、"ユーレカ"の姿が徐々に明らかになってくる…
バタフライ効果、ユビキタス社会、進化論の新たな解釈と「種」の可能性への考察、と言ったSF的アイデアをちりばめつつ、基本的なお話は割とガテン系というか、そこにいる者がベストを尽くす系の比較的シンプルなアクションSF。アクションというか人間ドラマの側がややシンプルすぎるんじゃないだろうか、と思わせる反面、随所随所に挟まれるSF側の思考が要求されるパートは、意外に深いところまで考えることを要求してくる、みたいな。そこを放ったらかしてエンタティンメントSFとして読んでいってももちろん面白いんだけど、そこになんて言うのかな、ネットという制限を超えて拡散するクラウド、みたいな概念とか、そのクラウドに絡んでくる「種」と言うものの思想的な側面、なんてあたりまであわせて考えてみると、意外に深いところまで考えることもできる作品になっている、と言えるだろうか。
お話の基本ラインは三つあって、それぞれが独自に展開し、やがてそれらが一つに収束する(一本だけ、混じり具合がやや浅いんだけど)構成は、それが小説だろ、って話ではあるんだけどやっぱり上手いと思う。キャラクタの描き分けはやや甘いか。読者をミスリードに導きにくい展開は親切設計なのか軽く書いてしまったのか、どっちなのかは良く判らない。キャラの描き分け、は判るけど「そう言うキャラなのね」ってところまでは納得できるけど、そこを超えてもう一声感情移入できるキャラクタがいない、ってあたりはちょっと残念かも。それぞれの立場で頑張っているんだろうな、と言うのは分るんだけど、「これ以外の道はないんだ」的な追い詰められ感、ってあたりの持って行き方は少々浅いかも知れない。オチの付け方にももう一声か二声、大ネタが欲しかったと思う。と、ここまで「物語」側パートのお話。
ただ、そういう「ちょっと惜しいなあ」的物語パートに絡めて語られるSF的アイデア側の繰り出し具合の、出し惜しみのなさはかなり魅力的で、エンタティンメント作品であるながらその裏にある思索の可能性、みたいな部分は結構深くって、そこで「これは何を示唆しているんだろう」と考えてみる楽しさ、みたいなものも同時に備えた作品ではあると思う。やや軽い、とは言えるんだろうけれど、それでもその気になったらいろいろ考えてみることも可能なお話、と言えるんじゃないかな。いろいろ考えなくてもそれなりに面白かった、とも言える程度には楽しめましたよ。
んでもこれ、最終的(?)に実はその根っこにあるのは「猫SF」、だったりするんだよねえ(^^;
★★★☆
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