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ルーシャス・シェパード 著/内田昌之 訳
カバーイラスト 日田慶治
カバーデザイン 坂野公一(welle design)
竹書房文庫
ISBN978-4-8019-1588-6 \1100(税別)
数千年前、魔法使いによって封じられた巨竜グリオール、その全長は6000フィート、高さは750フィートに及ぶ。その巨体には長い年月の間に土が積もり、川が流れ、村落がつくられていた。だが魔法使いの術式は完全ではなく、動きは取れず心臓の鼓動も呼吸も止まっていたが、グリオールの精神は死んではいなかった。竜から発散する精神波は、周囲の人間たちに微妙な影響を与えていたのだ…
ルーシャス・シェパードは日本ではあまり本が出てない感じがあって、「緑の瞳」「ジャガー・ハンター」「戦時生活」ぐらいしか記憶にない。ラテン・アメリカ風マジック・リアリズム風味だったかな、ぐらいの印象だったかな。そんなシェパードの唯一のシリーズもので、全7作のうち前半部分の4編の中短編が収録されている。うまく説明できる自信はないけど、各話についての簡単な感想を。
いまだ完全に死に絶えてはいないグリオールを完全に死滅させようとやって来たのは一人の画家だった。毒性のある塗料を用いて竜の体に絵を描くことで、その毒でじわじわと竜を殺してしまおうというのだ。多大な費用と時間をかけて、絵を描き続ける男の結末は…
長い時間のなかで、本来の目的とは異なる欲望が産まれたとき、もとの狂信にどのようなゆらぎが産まれるのか、的な。
グリオールにへばりついた村、ハングタウンに住む男は竜の影響により近いところで娘を育てることで、何か特別な存在に育つのではないかと考えた。その娘、キャサリンは父の思惑通り美しいが奔放な娘に成長する。ある日、やむを得ぬとは言え殺人を犯してしまった彼女は、追っ手を逃れるためグリオールの体内に潜り込むのだが…
非常に限定的な環境下でのエコSFとでも言うのだろうか。竜、竜に寄生する様々な生き物(なかにはかなり人間に近い者たちもいる)、さらにはこれもグリオールの思惑なのか、超自然的な存在との出会いもある。閉塞感たっぷりながら、ラストは少しだけ解放感もある。
グリオール由来とおぼしき石を握りしめて立つ男。その傍らには怪しげな新興宗教の教祖の死体が横たわっていた。ここまで決してぱっとしないキャリアを重ねてきた一人の弁護士は、この事件で名声を勝ち得ようとするのだが、肝心の被告人の態度はどうにも不可解で…
一種の法廷ものとして充分楽しめるんだが、ここにグリオールがもたらす精神への揺さぶりが加わって、お話自体も揺さぶられていく。
粗暴な男、ホタは成り行きで人を殺してしまった。追及の手を逃れるために金目のものをかき集め、テオシンテの街に移り住み、それなりに穏やかにくらしていた彼は、ある日グリオールの上空を飛翔する一頭の小ぶりな竜の姿を目撃する。その竜が着地したと思われる場所へ向かったホタが目にしたのは、一糸まとわぬ若い娘だった…。
人間と竜の一種の恋物語と言えるのだが、甘さよりは不穏さ、苦さの方が先に立つ。ある意味グリオールの力のようなものの作用が一番わかりやすく描かれているかも知れない。
てな感じでしょうか。非常に濃密で、かつ、これは訳者の内田昌之さんの力量もあってのことだろうけど非常にリーダビリティが高い。重厚と平易が非常に高いところでバランスをとっていると感じた。そこで語られるのは欲望と愛情のせめぎ合い、ということになるでしょうかね。
いやあ、これはなかなか結構でした。文庫本にしておくには勿体ない装幀、カバーイラストなども含めて大変上質な一冊。ついでに著者による「作品に関する覚え書き」が相当不穏でギョッとして、続くおおしまゆたか氏の解説で、さっきの「ギョッ」も順当なのかわからなくなる、というおまけ付き。ついでにこの「解説」もなんというか、凄く(または無駄に)熱くてお得感満載です(w。
★★★★☆
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