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2020-03-14 [長年日記]

[Books] ゲームの王国

ゲームの王国 上(小川哲/著) ゲームの王国 下(小川哲/著) 小川哲 著
カバーデザイン 川名潤
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-031405-7 \840(税別)
ISBN978-4-15-031406-4 \840(税別)

史実を追いながら不穏さが浸蝕してくる

第2次大戦後、激動の時代を迎えたカンボジアに異能を授けられた二人の子供がいた。一人は相手の嘘を見抜く力に長けた少女ソリヤ、もう一人はたぐいまれな認識能力を持った少年ムイタック。独立から革命、そしてクメール・ルージュによる大虐殺と続く歴史の中で、二人と彼らにまつわる人々の物語が時に混じり合い、時に並行しながら進んでいく…。

念のためWikipedia先生にカンボジアの歴史を教えてもらったんだけど、ほぼ本書で描写されているような流れになっている。自分の記憶にあるのは、長かった戦争が終わったばかりだというのに隣国であるカンボジアにベトナムが侵攻した、ってニュースあたりか。せっかく戦争終わったのになんでまた戦争すんだろう、って思ったことと、やたら「シアヌーク殿下」って名前が出てきてた、ってあたりか。ちなみにシアヌーク、というのは旧宗主国であるフランス語読みだと h を発音しないからで、正しくはシハヌーク、ってのが近いようですね(Wikipediaで教えてもらった)。そのあとクメール・ルージュの大虐殺の報道を知って恐怖した、あたりか。

んでその辺の実際の歴史の流れ、本書はかなり正確になぞっている。なので出だしはSFと言うよりも、そうだな、船戸与一もかくや、と思えるような暑く、じっとりとした冒険小説の趣。なんだけどそこからの展開は、なんと言うんだろう、SF的不穏さが徐々に増していき、最後は本書のタイトルでもある「ゲーム」にまつわる展望が語られる、みたいな。全体としてはきわめてゆったりとした流れながら、非常に濃密な展開をとても平易な語り口で語られていく物語の展開は、全く退屈しない。そこそこ長いお話なんだがたいしたページターナーっぷりだと思う。

ソリヤとムイタック以外の登場人物たちもたいそう魅力的。普通の人間とSF的な異能の主が渾然一体、先にも書いたように徐々に増していくSF的な不穏さ、未来への展望のようなものに関わり合いながらお話は展開していく。魅力的なキャラが沢山いるんですが、それを明かしちゃうのはもったいないからここは自重しますけど。

最悪の革命政権によって一度は暗黒状態に陥ってしまったカンボジアで、その暴虐の嵐から如何に逃れ、その状況に対するカウンターとなろうとする人々の苦闘に、SF的な仕掛けが徐々に大きな影響を与えていって、最終的に辿り着くところは…ってあたりは是非自分で読んでいって味わって欲しい。「王国」とは何を指すのか、誰が「王国」を造り、運営し、どこへ目指すのか、ってあたりには様々な解釈も成り立つだろう。

そのうえで、これはほとんど言いがかりというか、そこに著者の目的は無いであろう事に対して文句を一つ付けるのだけれど、先に書いたようにフナドで始まった(ような気がする)物語の最後にもフナドてきな決着も付けて欲しかったような気がしている。舟渡作品のテーマって言うのは、虐げられた者たちに対する熱い共感、のようなものであると思うんだけど、そこを最後にもう一度、何らかの形でけりを付けて欲しかったような気がするんだな。もちろんSFとしてこれは間違いの無い終わり方であると思うんだけど、序盤であれだけ酷い目に遭ってしまった市井の人々への、ちょっぴりでも良いから共感を分けて欲しかったかもな、って気はしてるんですね。勝手な思いだけど、そこだけちょっと残念だったかも。

んでも読み応えはたっぷりでした。素晴らしい作品だと思います。

★★★★


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