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ヴァーナー・ヴィンジ 著/中原尚哉 訳
カバーイラスト 鶴田健二
カバーデザイン (前作に倣うなら)岩郷重力+WONDER WORKZ。
創元SF文庫
ISBN978-4-488-70507-7 \1200 (税別)
ISBN978-4-488-70508-4 \1200 (税別)
「星間船の丘」の戦いから2年、際涯圏から低速圏へと転位した惑星上で、犬型の集合知性生物、鉄爪族と少数の人類の共存関係は続いている。現在の人類側の指導者、ラヴナも様々な問題に悩まされながらもそれなりに落ち着いた日々を送っていた。だが、ラヴナたちとともに低速圏に転移し、30光年先にあると思われた邪悪な超知性体、「疫病体艦隊」が圏界の転移によって際涯圏に戻ったと思われる証拠が見つかったのだ。低速圏にあれば数千年の時を要する30光年の距離も、際涯圏からならはるかに短い時間で移動できる距離になる。残された時間が意外に短い事を知ったラヴナは対抗策に苦慮するのだが…
前作、「最果ての銀河船団」が2002年の刊行、なおかつそちらは今回のお話からはかなり昔の物語で、本書と直接関係するお話はそのまた前の「遠き神々の炎」から続く物語で、こちらは1995年の刊行。19年前に読んだ本の続きをいきなり読む羽目になるという…。本書の解説で堺三保さんは前作についてはそれほど気にする必要はない
なんて書いてらっしゃるけど、
んなこたない。
そもそも登場人物たちにどういう過去があったのか、はやっぱり覚えてないと辛いだろう、と思える箇所がいくつもある。だから、読めるんだったら一作目は絶対読んでおいた方が良い。残念ながら今手元に「遠き神々の炎」無いので、せめてどんな感想持ったかぐらいはサルベージ出来ないか、と思って探してみたけど、なんせほれ、ADSLも来てないころなんで、あんまり長文を書いてないんだよね(^^;。一応、外に行くほど物理的にも、思考や概念的にも速度が上がる世界にシフトしていく(これが『低速圏』とか『際涯圏』ね)という宇宙観はすげえなあ、ってのと、現代からちょっと進んだネット社会のメタファー的な部分を面白がっていたみたいだけど。
というわけで割に徒手空拳で19年ぶりの続編に挑戦する羽目になったわけだけど、で、いろいろ引っ掛かりもありつつ読んで行けばそれなりに面白くて、そういう意味では堺さんの言葉もあながち外しちゃおらんとも言えるとは思うんだけど、満足できたかといえば、そこはまた別の話ともいえるわけで。
ラヴナたちが現在いるのは、超光速航行が絶対に不可能な低速圏。ここに際涯圏のテクノロジを搭載した宇宙船、オービー号とともに取り残された人類と、この惑星の本来の住人である鉄爪族との権力闘争が主なテーマになる訳で、とりあえず疫病体艦隊がどうしたこうしたって話がいったん措いといて、多少はハイテクもあるけど基本は中世風の世界における人類と異星生物とのコミュニケーションをめぐるお話が本書。そういう意味では「デューン」あたりに通じる環境SFのテイストが強いお話といえるのかな。で、そこはそれなりに興味深い。いくつかの個体が結合して一人の存在になる鉄爪族、そのキャラクターを形成する時に個々の個体が様々な影響を与える、とか、人間と違って思考が音を発生させる、という設定とか、いろいろ面白いのね。途中で出てくるイカ君たち(意外に大事な役どころだし)もいい感じでゲソよ(w。
ただ、そういう設定部分とは別に、お話の本筋が割に地に足をつけて、人(じゃないのもいるけど)同士の関係性のやり取りのようなもので先に進んでいくタイプのお話になっていて、ハードSF的なハッタリ以上に、冒険小説的なストーリーの練りこみが必要なタイプの小説として作られなければいけない物になってしまったにもかかわらず、そちらのツッコミがこれ、かなり甘いんじゃないかなあという気がしてしまって。
それなりに錯綜したプロットが用意されてはいるんだけど、それらのまとめ方がうまくないというか、読み手にとっての必要条件を満たしてくれないところでこれで良し、としてしまっているように思えて。本来SFって、SF的アイデアがうまく機能していればそれだけで、物語の部分にアラがあってもまあいいか、で済まされることも多いんだけど、本書はSF的なアイデア以上に物語の部分に注力しなければいけないタイプの小説だったんじゃないかな。で、残念ながらそこはいろいろ足りてなかったな、と。どっちかというと残念賞、かなあ。
ま、そうは言っても続きはあるんでしょうから、そっちで鮮やかにこの辺の不満が吹っ飛ばされることを期待してはいますよ。また数年待たなきゃいけないんだろうけどね(^^;。
★★★
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