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衣奈多喜男 著
カバーイラスト 生頼範義
朝日ソノラマ 新戦史シリーズ
ISBN4-257-17205-3 \560(税別)
太平洋戦争の開戦直前、朝日新聞のヨーロッパ特派員としてアメリカを経由してイタリアに渡った著者が見た欧州戦線の終焉まで。
商売ものに手をつけるシリーズ。同じサイドにいる側から見た一方の交戦国の退潮が見て取れる、という意味においてとても貴重な記録であると思う。著者の衣奈さんがヨーロッパに渡った時期は、一見枢軸側優勢に見えるけれど、ダンケルクで英軍の追い落としに失敗し、アフリカではイタリアが馬脚をあらわしかけていた頃。実は枢軸側にとってはこのあたりで名誉ある講和があった方がよかった時期。なんだけどなし崩し的に日本が参戦し、戦争は世界規模で拡散していく時期。
そんな時期にあっても著者は「報道」の本分を貫くべく奮闘する。このあたりが本書の魅力なんだと思う。どんな状況下でもとにかく自分の目で戦況を検分しようとし、そのために貴重なガソリンを得るために奔走する。取材の過程で知り合った人には敵味方を問わず一定の敬意を払って接する。その中でおそらく日本国内にいたらわかりようもない国際情勢の「匂い」のような物を感じとり、その中での権力闘争に明け暮れるドイツとイタリア、そしてその周辺諸国の政治家たちの丁々発止を読んでいく過程で、「外交」というものの深謀遠慮の有り様のようなものが見えてくる。このあたり、終戦工作においてどう見ても後手を取ったとしか思えない、ソ連頼りの工作にしか頼れなかった日本の外交交渉の未熟さまで俯瞰できてしまう作りになっているのは皮肉というかなんというか。
もちろん著者の衣奈さんはそこまで踏み込んだ考察をいちいち加えるようなことはしていなくて、ただひたすら日々の取材活動をこなしていく過程を淡々と綴っているだけなんだけど、それだからこそ逆に、定見のない国策で駆動される外交政策が国家に与えるダメージの大きさ、みたいな物が見えてくる。そしてそれは単に過去の叙事詩として役割を終えるのではなく、今、そして未來の我々にとっても極めて示唆に富んだエピソードとして、その存在価値を減する事なく存在していると言えるのではないかな。
その上でとても小さなエピソードではあるけれど、報道に在るものにとってはいわゆる「やらせ」も場合によっては武器なのだ、という意識がある、ということがわかるような記述もあってそこもちょっと興味深かった。実際にあったことであるならそれを再現し、こうであったのだということをビジュアル的に、もしくは音声などで再現してみせるのはありだよね、はジャーナリスト的には当然、なスタンスなのだな(^^;。そこは受け手側がある程度、今風に言うなら忖度して受け取らなければいけない類いの情報なんだろう。なんであれ、やって来たものをそのまま受け取って反応するのは拙いよ、ってことでしょうか。一応そこは自戒しておこう、なんて事も同時に感じました(苦笑)。
★★★☆
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