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2019-11-13 [長年日記]

[Books] 折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)(ケン リュウ/中原 尚哉/大谷 真弓/鳴庭 真人/古沢 嘉通) ケン・リュウ 編/中原尚哉・他 訳
カバーデザイン 川名 潤
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-012253-9 \1000(税別)

新しさと、懐かしさと

現代中国のSFの佳編をケン・リュウが英訳・編纂したアンソロジー。7人の作家の13編の短編と3編のエッセイを収録。

今年「三体」が大ヒットして俄然注目を集めている中国SF。その最先端の作品群をケン・リュウが訳した英語版をさらに邦訳した作品集。ほら、俺なんか中国SFといわれてとっさに出てくるタイトルが「猫城記」だったりするロートルなのでね、いきなりのこの事態に結構困惑もするし、正直「ホントにそんなにすごいの?」感もあるのは否めない。とはいえ「三体」が文庫になるのはまだ先だろう(三年待てる人なんです)から、ここで良い機会をもらったと思って読んでみた。って事で行きますよ。あ、今回はディレクトリリストのタイトル部分に著者名、データ部分にタイトルと訳者、その内容、という変則パターンでいきますね。

陳楸帆(チェン・チウファン)
「鼠年」(中原尚哉 訳)

最高学府に入学できていながら、就職の望みも薄い学生たち。彼らは荒野に出て、野生の鼠を狩る作業に従事している。ただしその鼠たちは中国の大企業が遺伝子技術を用いて作り上げた、ネオラットと呼ばれる人口生命体だった…。
前書きなどでもケン・リュウは再三、現在ただ今の中国の状況を投影したくなる誘惑には抵抗してほしい、と言っているんだけれども、それでもその抵抗は結構困難なのじゃないかな、とは思う。本作で言うなら、なんなら天安門事件で敗北した学生たちへの共感と同情、みたいなものを感じるなってのも無理だろうって気はするし。でも最後に感じたのは永井豪の「真夜中の戦士(ミッドナイト・ソルジャー)」だったりして(^^;。

麗江(リージャン)の魚」(中原尚哉 訳)

エリート社員だった僕は、定期健康診断で精神的ストレスを抱えた状態であると診断され、二週間のリハビリを宣告される。そこで十年ぶりの再訪となった麗江で見たものとは…
そういうジャンルがあるのかどうかは知らないが、「避暑地SF」だよねこれ(w。その味わいは結構なものかと思いました。

沙嘴(シャーズイ)の花」(中原尚哉 訳)

深圳でちょっと怪しい家業を営む僕が出会ったひとりの女性。彼女のために一肌脱ごうとした僕だったが…
乱暴な喩えですが中国版「ヴーダイーン」もの、なんてのはどうだろう。ハイテクを駆使しつつもどこかでその、またはそこの地域的な何かに囚われ続ける人のお話、と言えるのでは。

夏笳(シア・ジア)
「百鬼夜行街」(中原尚哉 訳)

中国版のアミューズメント・パーク。そこのキャストに混じって暮らす人間のぼく、少しばかり寂れてしまったこのパークでの暮らしの四季おりおりのなか、ぼくに降りかかる様々な物事とは…
もしかしたらこれが本書で一番「中国っぽい」お話なのかも知れない。なんと言うんだろうね、「雑伎団SF」とでも呼びますか? 非常に雑多なガジェットがぶち込まれるかなりカラフルな作品なんだけど、お話は徐々に不穏になっていく(w。

童童(トントン)の夏」(中原尚哉 訳)

要介護のおじいちゃんのために持ち込まれたロボットと少年の物語。これは打って変わって汎用性の高いお話、と言えそう。どこに置き換えても通用するお話だと思う。

「龍馬夜行」(中原尚哉 訳)

こちらも「百鬼夜行街」と通底するものがありながら、打って変わってモノクローム・テイストな一篇。ものわかりの良いシュライク(「ハイペリオン」でも「移動都市」でも可)の道行きのお話。うん、この方の作品はどれも好きになれそうな気がする。

馬伯庸(マー・ボーヨン)
「沈黙都市」(中原尚哉 訳)

禁止用語ではなく、使用可な言葉が住民たちを縛り付ける世界。そこに暮らす住人の中には、その制度に密かに抵抗する者たちがあった…。
ネタバレになっちゃうのかな、中国SF版「華氏451」って事だと思う。もちろんブラッドベリのから現代の時代背景のアップデートは無理なく用意されていて古さは感じない。手堅い一作、というのが一読した感想だな。

郝景芳(ハオ・ジンファン)
「見えない惑星」(中原尚哉 訳)

「量子論的銀河ヒッチハイク・ガイド」はちょっと乱暴すぎるかな(w。次々と語られる未知の惑星たち。そこで語られるエピソードには割と大きな比率で「認識」みたいなものがテーマに込められていると思う。

「折りたたみ北京」(大谷真弓 訳)

三層に折りたたまれ、各層ごとに社会階級の異なる人々が生活する大都会。第三層に暮らす1人の男はとある依頼を果たすため、折りたたみのタイミングを計って第一層に潜入しようとするのだが…。
ミエヴィルの「都市と都市」もかくやという大仕掛け。そこで語られるのは、まあ普遍的な人の格差と差別の物語。まるで似てないけどちょっと「ブレードランナー」的なイメージを受け取った。

糖匪(タン・フェイ)
「コールガール」(太谷真弓 訳)

15歳の小一(シャオイー)には女生徒としての顔に加えてもう一つの顔があった。クラスメートからは白い目で見られてはいるが彼女は気にしない。そんな彼女のもう一つの顔とは…。
ま、タイトルがそのあたりを物語ってはいるのですが、単なるコールガールだと思ったら大間違い、セックスを扱うと言うよりは、なんて言うんだろう、今の中国におけるフェミニズムSFの一つの形、と言えるのでは。もしかしたらこれはすごく新しい犬SFなのかも知れんけど(w。

程婧波(チョン・ジンボー)
「蛍火の墓」(中原尚哉 訳)

世界に終末が訪れ、人々は新たな世界を目指して移動を開始する。その中で人々の間には新しい「体制」の形が芽生えてきて…。
初期星野之宣で始まって、24年組の作家の誰か(特定しきれない。山田ミネコさん、かなあ)がペンを引き継いだような。全体としてはきわめて少女マンガにおけるSFの一つのジャンルにぴったりはまりそうな気はしてる。

劉磁欣(リウ・ツーシン)
「円」(中原尚哉 訳)

秦の時代、皇帝の命で円周率を極めることを命じられた学者が講じた策とは…。
うはは、中国にも小川一水がおった(w。どこに出しても恥ずかしくない、とても今様な数学SF。「今様」って言葉でくくるなら本書に収録された作品中、一番「新しい」お話と言えるのじゃないかしら。

「神様の介護係」(中原尚哉 訳)

突如地球に飛来した宇宙船団。そこに座乗していたのは20億の「神」だった。行き場を失い、地球での生活を希望する神々の要望とは…。
前作が小川一水ならこちらは田中啓文か(いやそこまでは…)(w。「三体」で一躍有名になった劉磁欣、実はその芸風は相当広かったと言うことなのね。脱力ストーリーのあとに待っているものとは、ってあたりにオーソドックスなSFショート・ストーリィの味わいがある。

はあはあ、やっと終わったぞ(w。んと、いくらケン・リュウが「深読みするな」と警告を発していても、この作品群から現代中国の諸問題を連想するな、といわれてもそれは無理だろう。とりわけ新書版から1年以上経った今、香港の騒動なんかも無視は出来ないわけで、いかに未来を描いていても本を読む我々が最初に参照するのは現代社会であるわけで、そこに目を瞑る、というのはやはり困難なのでは、とは思うし、敢えてそれをやるのは何かを見ないふりをする、って事になるのではないかな、って気もする。難しいな、ってのが正直なところ。

とはいえ各作品の読みやすさや面白さは抜群で、そこは大変楽しめた。全体としてはどうだろう、若干クラシックSF側にシフトしたストーリー感に、現代中国というか現代世界においてアップデートされたいくつかのガジェットが上手い具合に組み合わさったお話が並んでいる。これは決して何かが後退したとか言う話ではなく、これからSFを読んで前進していこうとする読者にとってはうってつけのアンソロジーと言えるのじゃあないだろうか。思ってたのとはちょっと違ったけど、総じて王道を行くアンソロジーになっているな、と思いました。とても良かったです。

★★★★☆


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