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2014-04-07 [長年日記]

[Books] 第六ポンプ

第六ポンプ(パオロ・バチガルピ/著 中原尚哉/翻訳 金子浩/翻訳) パオロ・バチガルピ 著/中原尚哉・金子浩 訳
カバーイラスト 鈴木康士
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011934-8 \980 (税別)

アグリパンク、とでも言うのかね

バチガルピの第1短編集。表題作を含む10編を収録。

前置きは良いか。さっそくですけど各作品の感想みたいなものを。とはいえ、あとで改めて書くけど結構厄介なんだよなあこれ。

ポケットのなかの(カルマ) (金子浩 訳)

自立的に成長していく巨大建築物が建ち並ぶ中国四川省、成都。物乞いで日々を生きる孤児、ワン・ジュンはある日見知らぬチベット人から声をかけられて…。

勝手に成長していく建築物、と言うハイテク感溢れるハイソ層とブレードランナー感ばりばりの下層社会の対比とワン・ジュンが手にしたものに込められていたものとは、ってところにワンアイデア。そんなもんが入ってたのかい、ってところは確かにちょっとニヤリとできるかも。

フル-テッド・ガールズ (中原尚哉 訳)

「フルート化された少女」、というツカミはかなりこっちの興味を惹くものがある。まあ予想通りそれは一種の、恣意的に創られたフリークスの物語なんだけど、たとえば「ワイルドカード」的な悪趣味全開ぶりとは全く別の方にお話のベクトルは向いていて、そこから得られる読後感はむしろ静謐。この短編集の中では一番美しいお話だと思う。

砂と灰の人々 (中原尚哉 訳)

こちらもフリークス物だけど、こちらはFPSゲームのインターミッションパートを見るような感じ。バトルサイボーグのちょっとした日常の一コマを割とほのぼのと描いて、最後にえげつなく落す(w。

パショ (金子浩 訳)

過酷な環境下、部族間の争いが絶えない世界にあって、それら部族間の仲立ちとなろうとする人々を「パショ」と呼ぶ。10年の修行の後、パショとなって自らの故郷に帰った主人公だったが…。なんでだろ、レズニックのキクユ族物をちょっと連想した。自分的には本書に収められたお話たちの中で一番好きかも。

カロリーマン (中原尚哉 訳)

オイルメジャーに変わって穀物メジャーが世界のエネルギー市場を支配する世界。便利屋のラルジに持ちかけられた仕事は、そんな穀物メジャーの重要人物を脱出させる、というものだった…。カロリーが一種の通貨となった世界、動力の多くをぜんまいに負う、というあたり、「ねじまき少女」と同じ世界であることを伺わせる。お話的には、そんな世界でのストレートなアクション物ね。

タマリスク・ハンター (中原尚哉 訳)

カロリーに変わってこちらで意味を持つのは「水」。環境分野の専門紙での仕事も持っているガチガルピらしい視点からの掌品、と言えるかな。

ポップ隊 (中原尚哉 訳)

「ポケットのなかの法」と対になるようなお話。あちらが下の方にいる人物が主人公だったとするなら、こちらはハイソ側。若返り技術が確立し、事実上不死を手に入れた人類社会においてそれを否定する人々が存在する理由とは…。こちらもブレードランナー感が結構ありますね。

イエローカードマン (金子浩 訳)

世界観的にはこちらも「ポケットのなかの法」に繋がるところがあるような。あちらでワン・ジュンに関わる側の人々にも事情はあるよ、というような。こちらも「ねじまき少女」に繋がるお話。

やわらかく (中原尚哉 訳)

バチガルピ的「ハリーの災難」。なんかちょっと笑えた。2番目に好きかな。

第六ポンプ (中原尚哉 訳)

さまざまな食品添加物などの影響で、出生率が低下し、人びとの痴呆化がゆるやかに進む未来のニューヨーク。街全体の下水処理を一手に引き受けるポンプ施設で働く「僕」。しばしば痴呆現象を発症し、僕を慌てさせ、苛立たせもする妻マギーや同僚たちとの毎日だったがある日、9つのうちの6番目のポンプが何をやっても動かなくなってしまう。対策に頭を悩ませる僕が向かった先は…。

作品的なバランス、ってところではこいつが一番か。いろいろ考えると「お」って思うんだけどその辺の詳しいところを敢えて書かないところに好感を持つ。読者に「あれ、これって…?」って思わせるお話が一番だよね。

てな感じで。面白いか面白くないか、っていうところでは面白い。でも好きか嫌いか、ってところで考えると、文句なしに好き、とは言えないってあたりが悩ましいか。サイバーパンクにおいてバイトが重要だったように、バチガルピ世界においてはカロリー、もしくはジュールが人のレベルを測る物差しになっている世界。電子的な何かが物差しになっている世界と、よりバイオ風味が前に来た世界において、その世界のイメージがこうも変わるのか、と言うところでの読後感の違い、みたいなところは結構大きいな。建築の基礎にある物が、なんだかどろどろ、ぬちゃぬちゃしたもので彩られただけでこうも読んでいて「なんかヤだなあ」感が増幅されてしまうものなんでしょうか。

面白いものを読ませてもらった感は満点なんだけど、この(バチガルピの)世界には絶対まぜて欲しくないな、とも思ったことでした。読んでる間は楽しいけど、読み終わったら「えーと」と思ってしまう系。この辺が何とも厄介なんだよな。

★★★☆


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