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パオロ・バチガルピ 著/田中一江・金子浩 訳
カバーイラスト 鈴木康士
カバーデザイン 岩郷重力+N.S
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011809-9 \840 (税別)
ISBN978-4-15-011810-5 \840 (税別)
化石燃料の枯渇と、バイオ・メジャーによる度重なる遺伝子操作の悪ふざけは、地球環境を一変させた。いまやエネルギーは無尽蔵に消費できるものではなくなり、遺伝子操作の影響は次々と生まれる新種の疫病の温床となって人々を脅かす。辛うじて水没の危機を回避したバンコクで貴重なエネルギーを産出させる工場を経営するアンダーソンは、ある日市場で巧妙に遺伝子操作されて突き出された果物を手にする。これほどの技術を持った遺伝子操作技術者の数は多くない。アンダーソンは独自に調査を開始するのだが…
著者の名前の不思議な語感などから、これはもしかしたら南米風味のマジック・リアリズムに満ちあふれた作品(正直苦手です)なんだろか、などとちょっとビビりつつ読みはじめてみたんだが、そんなことは全くなくて、極めてユニークな世界で繰り広げられるスピード感満点のアドベンチャーもの、ってな感じかな。後でもう一度言及するかもしれないけど、個人的にはエフィンジャーのヴーダイーンものに通じる味を感じた。
お話の背景になっている世界がとてもユニークで、まずはそこが本書の魅力の大きな部分になっている。世界中のエネルギーが足りなくなっている世界、そこでは化石燃料を盛大に燃やして電力をがんがん供給する、なんて事が出来なくなってしまい、その代りに使われるのはゼンマイ動力。富の総量はドルでも円でもなく、ジュールで計られ、さらに度重なる遺伝子操作の影響で、現在ただいまの我々が知っているようなそれとは全く異なる、おかしなものどもが世の中にごろごろしているような世界。ものすごく進んだ技術と、クランク回して電力を確保しなくちゃいけないような、ある意味若干先祖返りしたような技術が混在している世界、って事になる。このミスマッチ感と、タイというロケーションのエキゾチシズムの合わせ技でぐいぐい押してくる。
お話は、あらすじで登場したアンダーソンという遺伝子系企業の幹部社員、彼の部下で難民扱いの中国人(過去には大物華僑的存在だった)のホク・セン、タイ王国の環境省で検疫と取り締まりを担当する元ムエタイ・チャンプのジェイディー、彼の副官のちょっと影のある女性、カニヤ、そしてタイトルにもなっている「ねじまき少女」(日本で作られたアンドロイド)であるエミコ、という5人の主要な登場人物となってお話が進んでいく。スジの基本は、登場人物達がそれぞれに、自分の立ち位置からさらにもう一歩、高みを目指してあがこうとするお話に、このユニークな世界における覇権争いの企みが絡んで進んでいく形になっていて、そこの所の構成はかなり上手く、SF仕立ての冒険サスペンスとしてかなりよく出来ている。SF仕立て、ってところだと、SF的な設定から生まれるキャラクタの特異性(それこそ『ねじまき少女』という存在とかね)とかも上手い具合に絡めてきているのね。
そんな訳で、まず小説として大変よく出来ていて、読み応えってところでは文句なしの一作。ただ、ヒューゴー/ネビュラのダブルクラウンに加えて、ローカスやらキャンベル記念やらも総なめしてしまえる作品なの? ってところはちょっと首をかしげたりもする。先にちょっと言及した、自分が「ヴーダイーン」で感じた、今まで見聞きできなかった世界観の一端がいきなり眼前に展開されたことによるワンダー、みたいなものがあったりしないかなあ、とちょっと感じたりはしたのね。
前の勤め先で、タイの工場でゲーム機の筐体を作ってもらったことがあって、その時の向こうの人たちの仕事っぷりが、控えめに言っても相当いい加減だったこともあり、自分のタイに対するイメージが「愛すべき抜け作」ってところがあって、タイってロケーションに対する心情的なところで結構割引が発生してる、って事情もあるんだけど、なんだろな、本書の帯の惹句にある「グレッグ・イーガン、テッド・チャンを超える」とか、「2010年代をリードする超新星」ってのはエッジ感的にありえねえと思ってしまいました。大変面白い作品だと思うけどね。
★★★★
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「ねじまき少女」、米英の人たちにはいろいろ衝撃的な部分があるのかもしれないけど、日本人から見るとそうでもない、という感じがあるのかもしれませんね。<br>私も、良く書けてる小説だとは思ったんですが、例えば神林長平の「アンブロークンアロー」(ずっと読んでなかったんですが、最近3作一気にまとめ読みしました)みたいな、脳天を殴られるような感じはしないので、なんだかなあと。<br><br>ここ数年で一番のお気に入りは結局「彷徨える艦隊」シリーズですね…。異星人テクノロジで超光速航行は出来るけど、超光速通信は出来ないという設定がなんだかとても好きです。
頭でがつんと食らわされる(「移動都市」とか「シンギュラリティ・スカイ」とか)か、ラストにどかんとやられる(「星を継ぐもの」とか)か、違いはあれどもそういうパワフルな一発は無かったかなあと言う気は確かにしますね。よく考えたらそれってすごくね? な話ではあるんだけど、なんじゃこりゃ、見たこと無い果物だぞー? で始められてもね(^^;)。<br><br>一番のお気に入りになるかどうかはわかりませんが、スペースオペラ的方面って事だと、私は「銀河乞食軍団 黎明編」がかなり好きです。微妙な「プロジェクトX」風味がなかなか良い感じで。<br><br>オチの付け方には若干不満があるんですけどね。