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コニー・ウィリス 著/大森望 訳
カバーイラスト 松尾たいこ
カバーデザイン 早川書房デザイン室
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4150120207 (税別)
ISBN978-4150120214 (税別)
2060年、オックスフォード大学史学部のダンワージー教授の研究室は、過去への現地調査旅行の準備で大混乱。今回学生たちが赴くのは第二次世界大戦中の世界。大戦においてキーポイントとなった事象のいくつかを実際に観察するのが目的なのだが、なぜか計画は順調に進行せず、混乱ばかりが大きくなっていく。それでもゴタゴタの末、どうにか歴史の舞台に送り込まれた学生たちだったが、混乱はさらに続いていた…。
ダンワージー研究室物の最新作。今回舞台になるのはバトル・オブ・ブリテンまっただ中の英国。ロンドン空襲を直接観察しようとするポリー、空襲からの疎開先に滞在するメロビー、ダンケルク撤退作戦を観察しようとするマイクルの三人をメインに、初めてのV-1号の攻撃を観察しようとするもの、"大君主"作戦の下準備に従事するものなど、1940年の英国と、間にちょいと挟まる形での1944年の英国の様子が描かれる。正直1944年の方は本書に限っては何も回収されていないエピソードなんだけど、これはまあ、続編というか解決編的な存在である「オールクリア」で意味を持ってくるのだろう。そう、このお話、上下間900ページ超を費やしてもなお、お話が終わってないんですな(^^;。
上巻では2060年のオックスフォード大学のドタバタぶりなんかも挟みつつ、少々とっちらかった感も無くはない(けどこれも伏線に向けての伏線なんだろうな)んだけれど、いざそれぞれのメンツが目的地に送り込まれたあとは、描かれるのは極めて膨大な分量の戦時下の英国の状況と、そこで生きる人々の非常に丁寧なキャラの立てっぷり。タイムリープした学生たちが出会う人々が、皆とても魅力的に描かれているんだった。イヤなヤツっぷりもコミでね。
やがて学生たちは、いったん自分たちの時代に戻ろうとするのだが、どうしたことか彼らを過去へと送り込んだ降下点が開かないというトラブルが起こり、どうにかして打開策を見出そうとするのだが…、というのが後半のキモになっていく。ここのところのストーリーテリングはさすがにウィリス、その会いたいと思っている人々のすれ違いっぷりの描写がすばらしく上手いんだった。
そういうわけで読んでる間は全く退屈しない。さすがのページターナーだとは思う。思うんだがしかし、読み終わったところでアタマにぼやーんと浮かんでくるのは次の二点。その1・終わらんのかい。その2・SFはどこ行った?
その1についてはまあ、訳者あとがきなどでも触れられているし、とにかく空襲下のロンドンと9・11以降の世界の不穏な感じのシンクロ具合に、作家としてのやむにやまれぬ感情が動いてしまって、という心情は汲めなくもないし、そこで1940年の英国の人々にどうしようもない感情移入が起きてしまった、というのもそれなりに理解はできる。いみじくも本書の登場人物がこんなこと言っている。
彼らはこの先どうなるかを知らない。それは、航時史学生にとって、けっして理解できないことのひとつだ。時代人を観察し、時代人とともに生き、時代人の立場に身を置いてみることはできる。しかし、彼らが経験していることを本当の意味で経験することはできない。なぜなら、わたしはこれからどうなるかを知っているからだ。
なんてあたりは著者本人にとってもいろいろ思うところはあるって事なのだろうね。そこは飲み込みますが、その2の方はどうだろう。ま、そもそも最初の設定の状態からしていろいろ無理はあるんだけど、この作品でもタイム・パラドックスに関する描写は出てくるんだけど、そこの扱いは意外にぞんざいなのだよね。
そこらは続く「オールクリア」でぜんぶさっくり説明がつくのかもしれないけれど、ひとつのタイトルとして見たときに、この宙づり感はどうしたもんだろうね。著者の思いとは裏腹、読んでるこちらは逆に醒めてしまうところもあると思うんだけどな。とりあえず続きに期待。
★★★
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