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伊藤計劃×円城塔 著
カバーイラスト redjuice
カバーデザイン Jun Kawana(ダブルカバー)
河出文庫
ISBN978-4-309-41325-9 \780 (税別)
19世紀末、世界は魂を失った死者にプログラムされた疑似霊魂を上書きすることで、生者の指示のままに動く屍者として復活させる技術が浸透していた。単純な労働力として、また退くことを知らぬ兵士として、屍者たちは人々の生活に浸透していた。そんなある日、ロンドン大学の医学生ワトソンは指導教官のセワード教授に声を掛けられ、謎めいた建物に誘われる。表向きは「ユニバーサル貿易」を名乗るそこは、実は大英帝国の秘密諜報機関の本拠だった。そこでワトソンはひとつの秘密任務への参加を持ちかけられる。それは激しさを増す英国とロシアとの間で繰り広げられている世界の覇権をめぐるグレート・ゲーム、その最前線であるアフガニスタンへの派遣だったのだ…。
惜しくも夭逝した伊藤計劃が次回作として用意していた、冒頭の30ページ程度のプロローグとA4用紙で何枚かのプロットをもとに、円城塔が続きを書き上げた、これはコラボレーションというよりは円城塔による伊藤計劃トリビュート的性格も含んだエンタティンメント。この辺の位置づけは結構厄介なところもあるけれど、円城塔自身が「文庫版あとがき」でこんな風に述べている。
ここでわたしは、伊藤計劃が自分の死を見越して、そのあとに展開するはずの「死者を素材として利用する世界」を書こうとしていたと言いたいのではない。その種の暗い発想は、わたしの知る伊藤計劃の作品に似つかわしくない。実際『屍者の帝国』は、『虐殺機関』や『ハーモニー』とはまた別系統の荒唐無稽な軽い読み物として構想されており、伊藤計劃の総決算として企画されたわけではないのだ。
というわけで。本書はあくまで伊藤計劃の着想を、円城塔が引き継いで自分の作品として仕上げたもの、と言うことになるのだろう。なのでこれは第一義的に円城塔の作り上げた物語となる。で、そちらほうめんで評価するなら、自分史上一番楽しく読めた円城塔、ってことになるんじゃないかな。こんなにすいすい読めた円城塔作品は初めてだよ。しかもこれまでは基本短編だったんだぜ(w。
お話はあらすじでもちょっと触れたとおり。密命を帯びてアフガンに乗り込んだ若き日のジョン・ワトソン(説明不要でしょうけど、かの名探偵の相棒の彼ですよ)が、同じく様々な物語で知られた名前の人物たちに出会い、世界をめぐる大冒険を繰り広げる、という、まあ言ってみれば(著者も触れているけど)キム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」的なスタイルの、小説トリビアっぽいところにこの人らしい「記述」をテーマに絡めたSF的な理屈の飛躍を楽しむような本、と言えるだろうか。で、この飛躍の塩梅が彼の短編なんかだと跳び幅が自分の理解力をしばしば超えてしまっていて、結果理解不能に陥ってしまっていたものが、こちらでは荒唐無稽な軽い読み物
の範囲内に収まってくれているので、あまり悩むところもなく楽しく読んでいけるものになっているんだった。
伊藤計劃が用意した線路の敷き先に円城塔がレールを置いていったらこうなりました、って感じなのかな。できあがったものにはすばらしく上等な厨二感、みたいなものが漂っていると思うけど、けっしてそう言うの、嫌いじゃないです、と言うかわりと好き(^^;。若干とっ散らかったところも無しとしないけど、総じて楽しく読めました。伊藤計劃さんが書きたかったのがこう言うものであったのかどうかはわからんけど、これはこれで、悪くないよね。
★★★☆
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