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ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 著/伊藤典夫・小野田和子 訳
カバーイラスト 影山徹
カバーデザイン 岩郷重力+S.I
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-012055-9 \1200(税別)
著者の衝撃的な死の翌年に刊行された短編集。10編収録。
男名前に欺されたー、本人は女性だったぜ。しかも本業はCIA職員ってなんなんだ、そのうえ旦那様を射殺した上自分も自殺ってどんだけの振り幅の人生だよ、で有名な、本名アリス・シェルドンことティプトリの最後の短編集。「輝くもの天より墜ち」の文庫版が2007年だったから、実に9年ぶりのティプトリ作品って事になるのか。それでは簡単に感想を。
初の有人火星探査に赴いた宇宙飛行士たちがその途上で目にしたものとは…。一種のファースト・コンタクトものだけど、ドタバタ異種間コメディを通じて描かれるのは、神のごとき存在の「ごとき」の部分を規定するのは詰まるところ思い込みであって、そこから導かれる結末は意外に苦いかも知れないぜ、という。落としどころが意外にエグいのはティプトリの持ち味だよな。
神のごとき存在のお話の次は、ほんまもんの神様たちのお話。しかしながらこのお話の神(と悪魔)が存在している世界は意外と俗っぽく、軽い。前作が「神のごとき」何かなら、こちらは「何かのごとき」神々の世界の世俗感たっぷりのブラック・ユーモア。そして今回も落とすところに不穏な何かが隠れてる。
フェミニズムSF、それも今風に言うならラディフェミ、つーのか、そちら方向にかなり寄った立場からのかなり強烈な告発を込めたお話。もちろん意図してそう描いたのだろうけれど、限りなくムカつく一作。
ちょっとファンタシイ風味も含みつつ、正反対の風土、政治形態をもった二つの国の男女のラブ・ロマンス。ただしロマンス風味よりは、はじめロマンスの成就を願っていた女性が、ロマンスを成立させつつ自国と相手国との力関係に大きな波風を立てないように話を進めて行くにはどうするか、に腐心する様子に話はシフトしていく。女性の側に立場から来る思考の変化、が起きやすいのに比べ、男ってのはあんまり変わらん生き物だな、という思想があると言えばある、のかも知れない。
どこに出しても恥ずかしくないミリタリSF。なんだけどミリタリSFにおいては通常ヒーローであるはずの超兵士が、本作においてはあらかじめ壊れてしまった存在として描かれているところが著者らしさと言えるのか。作中、主人公が収容される病院の描写がソフィスティケイトされたグァンタナモに見えてくるあたりは、ティプトリならではという感じがする。
もしかしたら一番ティプトリらしくない作品なのかも。グッド・オールド・SFのテイスト満点。それこそ「宇宙船ビーグル号」的な宇宙探検隊もののファースト・コンタクトSFになってて読んでて嬉しくなってくる。ただよく考えると「あれ? でもこれ…」となってちょっと怖くなってしまうのがティプトリSFの真骨頂、と言うことなのかね。
本書で言うなら「悪魔、天国へ行く」と「肉」のハイブリッドからがんがん贅肉をそぎ落としたようなお話、と言えるのかな。あまりにいろんな物が削ぎ落とされすぎていて、最初に読んだ時には「どういう話?」って思ってしまった(^^;。
タイムトラベルSF。ただしここで語られるのはタイム・パラドックスがどうこうとかいう話じゃなく、いうならば選択とそれがもたらす結果の物語。タイム・トラベルに関する仕掛けの説明の不具合に頬被りをしてまで描きたかったお話というのは、女心の振れ幅が作る悲劇、ってことで良いのかな…。
ある意味本書の中で一番気宇壮大な作品と言えるのでは。地球とファックする娘のお話。もうね、読んでる間ずっと、吾妻ひでおさんの挿絵が脳裏をよぎっておりましたよ(w。
死後の世界に対する一つの考察。ティプトリの訃報が伝わった後に公開された作品と言うことで、それはもういろんな考察が可能なお話と言えるか。死んでもなお何らかの役目を負わされるのがこの世界、と考えるとなんとも言えんうんざり感がやってくる。最終的に読者を無条件にハッピーにしてくれない、というのがティプトリの作風なのだ、と言われればまあ、そうなのかも知れんけど、ある意味TV版の「まどマギ」のラストのほむほむにオーバーラップするところも無くは無い…かなあ(^^;
ということで。基本読み応えたっぷりの短編集でございました。個人的には小谷真理氏の解説の、必要以上にフェミニズム(それもややラディカルな)方向に振られたそれが「そこまでのものなのかな」感満点で少々鼻白むところがあってそこははっきり言って嫌いなんだけど、それ以外は素晴らしい一冊になっているのではないかと。ヴォリュームたっぷりの良い一冊だとは思います。
★★★☆
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