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バリントン・J・ベイリー 著/大森望・中村融 訳
カバーデザイン 川名潤(prigraphics)
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-012104-4 \1000 (税別)
ワイドスクリーン・バロックの旗手の一人、ベイリーの単行本初収録作品10編を収録した短編集。
日本で話題になったのが80年代あたりだった事もあり、若手なのかと思ってたらそうでもなかったベイリー。50年代からすでに作品を発表していたんですね。「奇想」がウリのベイリー作品から、比較的初期作品を多めに収録した短編集。たぶん自分のなかでちゃんと消化し切れてない作品もあると思うので、それぞれの作品の感想は割とツッコミ浅いかも(予防線)。
世界を禅にしちゃう銃を思いつく人が、神を撃ち倒す銃くらい思いついてあたりまえ、なのかどうかは良く判らんが。神がすべてを造りだしたというのならば、神そのものもまた何かで出来ているはずだ、ならばそのモノを突き止めれば、神を倒す事も可能だろうと考えた一人のマッド・サイエンティストのお話。その奇想は面白いと思うけど、個人的にはこういう話を読むといつも思う、「神様ってそんなに良いもんなんですか?」感がついつい湧いて出てくるのも確かなところで。思想のベースにキリスト教がある人間と仏法思想がある人間の差なのかね。
大きい事はいい事か? に音楽を絡めてきたアイデア・ストーリィ。音は本来空気の振動のはずだけどその振動の「大きさ」が一定の限界を超えたとき、別の何かが生まれるかもね、的な。どうと言う事もないんだけど、ちょっと好き。
ヴェルヌばりの秘境探検SFのノリで楽しく読み進めていくと、最後に「エエエ!?」が待っている、という。ただの地底に潜む様々な異世界を見ていく冒険譚だと思っていたものが実は、いかにもベイリーらしい「そんな時空があるものなの?」と言う展開になって…。ここから「船」をモチーフにした短篇がいくつか続く。
退屈な宇宙仕事にいそしむふたり組のもとに突然現れた「もの」、それは何とも不可解な存在だった。その内部では時間と空間を超越した何かが発生しているらしい。二人はさっそく調査を開始するのだが…。
出だしはいかにもハードSF的なツカミがあって、そこで「お?」と思って掴まれると、その先に待っているのはいかにもベイリーな展開が待っている。それはどう言うものかというと、アイデアの面白さで掴んだら、その後は読み手が期待している方向性とは正反対の、「こまけえ事はいいんだよ!」で押し切られる感じ。そこのところの雑さもコミの面白さ、ってのがベイリーSFの真骨頂なのかも知れないな。
(何となく)共産主義世界と自由主義世界が二大勢力としてせめぎ合っている世界で、共産主義陣営側に一つの画期的な発明が。階級社会の中で存在が危うくなっていた主人公は、劣勢挽回のため、新技術の実験台を志願するのだが…。
という、一種冷戦時代の世界情勢を反映しつつ、時空を超えて移動するという行動の先に何があるかも知れないのか、を描くお話、ではあるんだけど、その先に待っているものはかなり苦い。
何となく本書の中では一番端正にまとまったお話ではないだろうか。語られるテーマは「ファンタシィの死」ということになるのだろうか。たぶん一番判りやすく、腑に落ちるお話になっていると思う。
映画に「D.N.A」あれば小説に「ロモー博士」あり、と言っていいものなのか。これはつまり原作が台無しだ、って点で共通している、って話なわけですが(^^;。比較的近年の作品で、それ故タブーの部分(この場合はセックスがらみでの)への斬り込み方の深さが違うな、というところ。
田中啓文あたりが書きそうだなあ、的な(w。大変悪趣味でブラックなバイオSF、って括りになるだろうか。
「ブレイン・レース」にも通じるところのある、ちょっと悪趣味な異形の生物をベースにした一種の環境SFという括りになるのかな。生き物の有り様の中で一番根っこにあるであろう「繁殖」をネタにした、割とぞんざいなコミカル・ストーリィというのはあまりに乱暴なカテゴライズでしょうか。でもベイリーSFって基本、そういうところあると思いません?
「不死」の存在を追い求めるものとそれを隠そうとするものの相克。「不死」を追うものの側がクリアしなくてはいけない条件とは、そしてその条件をクリアして「不死」を獲得するものに課せられる運命とは、と言うところで「お話」が出来上がっている。力作、と言えるのではないでしょうか。
正直煙に巻かれた感は無しとしない。でもこういうのが「SFを読んだ」感ではあるよなあと改めて思わせてくれる作品集、でもあるよね。もうちょっとヴォリューム欲しかったけど、それでも堪能させていただきました。定価が1000円切ってたら、今年ナンバーワンの本だったと思うけどね(^^;。
★★★★
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