ばむばんか惰隠洞

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2007-04-27 [長年日記]

[Books] 膚の下 (23:53)

膚の下 上(神林長平/著)膚の下 下(神林長平/著) 神林長平 著
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-030881-0 \900(税別)
ISBN978-4-15-030882-7 \900(税別)

饒舌なる、創造主とのコミュニケーション

かつて発生した月戦争は月そのものを完全に破壊し、その影響は地球にも深く及んでいた。激変した地球環境ではこれ以上人類の生存は不可能と判断した国連は、地球の全人類をコールドスリープ状態で火星に送り、無人の惑星となった地球には機械人と彼らがコントロールするテラフォーミング機構のみを残し、250年の時をかけて地球を復興させ、そこに冬眠状態だった人類を帰還させようと計画する。この計画の上で機械人たちを監視するために産み出されたのが、人類とほぼ違わぬ人工生命体、アートルーパーたちだった。そんなアートルーパーたちの中でも最上位機種であるエリファレットモデルの一人、彗慈は今、廃墟での訓練行動中だった。そんな中彗慈たちは、かつてヨコハマと呼ばれていた廃墟の一角で、あり得ない物を発見する……。

「あなたの魂に安らぎあれ」、「帝王の殻」につづく、神林長平の"火星三部作"第三弾。刊行順とは逆に、物語の時代設定は先の物ほど未来を扱ったお話になっている。「あなたの…」(カバーイラストは佐藤道明でしたなあ)が刊行されたのは1986年。20年越しで完結したこのお話が常設に語るのは、いかにも神林な、存在というものにまつわるリアル/非リアルへの考察と、コミュニケーションにまつわる過剰なまでの弁証大会。そこでは創造主と想像される物の関係性、自分であると言うことは突き詰めて考えればどういうものであるのか、という問題が繰り返し繰り返し、少しずつ語り手の立ち位置と考え方を変えて語られる。神林SFの登場人物たちは、どうかすると何かのリミッターが壊れたかのように饒舌に語りまくる傾向があるんだが、本作ではもう、最初から最後まで、登場人物たちのリミッターは解除されっぱなしの勢いだ(w。

なんて書くと、まるで自分語りオンパレードの、やたら鼻につく描写連発のくどい長編、って印象があるかも知れないけれどそう言う心配は無用で、読み終わってみれば「ずいぶん語ったなあ」と思ってしまう内容なんだが、読んでる最中はそこにあまり拒否反応を起こすようなこともなく、さくさくと読み進められるようになっている、小説としての構成のうまさはさすが神林長平、ただ者じゃないなあと思わせられる。

読みようによっては極めて思索性に富んだSF作品として出来上がっているこのお話なんだが、そのキモの上に陸戦を扱ったミリタリィSF風味が被さっていて、退屈しないで読み進めていけるようになっているあたりが、小説として見たときの本書の出来映えの上等ぶりを良く表わしていると思う。お話としての完成度を保った上で、SF的な切り込みっぷりの鋭さも心地よい、そんな作りになっているのだな、

一種の神学SF的な要素を内包しつつ、エンタティンメントとしても充分機能していると感じさせてもらえるあたりで、なかなかエエモン読ませてもらった感たっぷりの一作。このたっぷり感満点な分量も嬉しいやね。ここしばらく再刊行が多くていまいち神林SFを読んだなあって気分が希薄だったところにやってきた、上下巻あわせて1200ページになろうかという超大作。いやいや、嬉しく微妙に懐かしく、楽しい時間を味あわせていただきました。神林SFが好きな人なら読んで損なしだ。

(★★★★)


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