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2008-03-05 [長年日記]

[Books] オドの魔法学校 (23:56)

9784488520076 パトリシア・A・マキリップ 著/原島文世 訳
カバーイラスト ©2007 Kinuyo Y.Craft, All Right Reserved
カバーデザイン 東京創元社装幀室
創元推理文庫
ISBN978-4-488-52007-6 \1000(税別)

マキリップ・ライト

人よりも自然との語らいを好み、そこからさまざまなメッセージを読み取る事の出来る孤独な青年、ブレンダン。いつものように山に出かけた彼が出会ったのは、不思議な雰囲気をたたえた一人の女性。巨人と言っても良い体格と、長い年月を刻んだ風貌を備えたその女性は自らの名をオド、と告げ、かつて彼女が王都に開いた魔法学校の専属の庭師としてブレンダンを雇いたいという。とある理由で傷心の日々を送っていたブレンダンは、彼女の申し出を請け、王都ケリオールに赴くのだった…。

なるべくならばファンタシィは読まないでおこうと思ってる私にとって、マキリップは例外的にかなり好きな作家。記念すべきハヤカワ文庫、FT1だった「妖女サイベルの呼び声」、山岸凉子の装画も良い感じだった「イルスの竪琴」3部作、ともに大変読み応えのある佳品であったと記憶している。ただ、この方はなぜか日本では訳がなかなか出ない方のようで、2005年の「影のオンブリア」が、実に17年ぶりのマキリップの訳出作品だったのだとか(しかもうかつな事にこちらは読んでなかったわ)。静謐、とかいう形容がふさわしい作風の方だけに、ケレン味不足が営業的に敬遠されたりしたのかしら。いつの間にかハヤカワじゃなく創元に移っちゃってるし。

さて本書。実は強大な能力を秘めていながら、それを縦横無尽にふるうのではなく、そんな"力"を秘めた存在を中心に、さまざまなキャラクターが近づいたり離れたりを繰り返し、いつしかお話は大団円に向っていく、という物語であるわけで、そう言えば似たような話があったなあと思って真っ先に頭に思い浮かんだのが「バイオレンス・ジャック」だった、ってのは私の頭が少々おかしなことになっている証拠かも知れないが、でも少女漫画的「バイオレンス・ジャック」、って喩えはそんなに的外れでもないんじゃないかな、って気もしないでもない。その存在が明らかになった事で、停滞気味だった世界に新たなモーメントが生まれる、って図式は間違いなく相似形なのじゃないのかな、なんて。

"魔法"をひとつの"技術"と捉え、魔法学校という存在が、その効率的な運用にばかり注力するが故に、制度的な硬直が発生し、そうなるとそこに風穴を変えたいと思う勢力が生まれる、という歴史的な流れは間違いなく生まれるよね、ってのがお話の割と深いところに潜んだテーマであるような気はする。そこをあんまり強調せず、敢えて(一応は)主役(のはず)のブレンダンに筆を割かず、彼の存在によって、自らの生き方に変化がもたらされる何人かの登場人物たちの複数のエピソードが、時にユーモアを交えて綴られていくところに本書の魅力があるのだと思う。思うけどお話としてはやや物足りないものも感じるな。

マキリップ作品には、なかなかその全貌を見せない強大な敵を実に上手く描写している、という魅力があったと思うんだけれど、残念ながら本書では、そのあたりの描写がかなり稀薄。黒けりゃ良いってもんでもないだろうが、黒さは白さを際だたせるのでね。なんだ、みんな白かったのかい、では読後感もパッとしないだろうと。ディティルの細やかさはさすがマキリップなんだけど、全体を通して読む時のストーリーの起伏って点では、やや物足りなかったかな。

妖女サイベルの呼び声(McKillip,PatriciaA/著 Pautz,MaryPatriciaMcKillip/著 ほか)

記念すべきハヤカワFT1。これはとても良いです。

★★★


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