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ジャック・キャンベル 著/月岡小穂 訳
カバーイラスト 寺田克也
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
1. 下士官の使命 ISBN978-4-15-011851-8 \860 (税別)
2. 指揮官の決断 ISBN978-4-15-011866-2 \880 (税別)
3. 永遠の正義 ISBN978-4-15-011881-5 \880 (税別)
人類で最初に月に到達したアメリカ。だが彼らはそこに価値を見いだすことをせず、月の所有権も曖昧なままに地球での覇権を追求、21世紀のある時点で、地球の権益をほぼ独占するに至っている。ここに至りアメリカ以外の諸国は月に注目。続々と月に進出した諸外国は、やがて月に眠る膨大な資源をもとに、徐々に利益を上げ始めていた。遅ればせながらアメリカも月に目を向けたのだが、すでにそこは各国によってほぼ占拠されている。ここで利益を得るためには先行している諸外国の施設を強奪するしかない。
こうして平和維持活動の名目のもと、月に送り込まれたアメリカ陸軍。その中にイーサン・スターク軍曹の姿もあった……。
ジャック・キャンベルが「彷徨える艦隊」の前に発表したミリタリイ・SF。一種の海洋冒険小説のテイストを下敷きにした「彷徨える…」シリーズに対し、こちらは陸戦もののテイスト、というか根っこは「宇宙の戦士」あたりになるのかな。ただ、本作では「軍隊」ってやつが、ハインラインが描いたような、上から下まで完全に信頼でき、服従するに足りるだけの強固さを持った組織とはちょっと違った描かれ方がしていて、そこが案外新鮮。
この時代の米軍は、相変わらず世界最強の戦力を保有してはいるけれど、その力の保持のためには関係するさまざまな企業からの資金提供が不可欠。そのためにこの時代の軍隊は、国民ではなくスポンサーが満足する戦いを行わなければ無くなっている上に、士官達の思考が完全に硬直化してしまっており、現場を知らない上官達がスポンサーを満足させるための戦いを企画し、それを下士官達に強いる世界になってしまっている。結果、戦争は下士官、兵卒達にとっては過酷なものになっていき、そのことに疑問を持つ一人の下士官が登場するまで、無為な戦いばかりが繰り返されることになってしまっている、というのがお話の前提。
この世界での軍隊は基本的に世襲制。軍人は代々軍人として生まれ、軍人の生活圏で育っていき、民間人とは一種隔絶された人生を送るのだが、たまには例外もあり、民間人から軍人にクラスチェンジする変わり者もいる。本作の主人公、スターク軍曹もそんな一人。で、そんな出自のスタークが、前述したような軍の体制に疑問を抱き、軍曹として最低限、自分の分隊の部下の命だけは無駄にすまいと(いろんな裏技も使いながら)奮闘するのだが、士官達の不定見と無能ぶりはとどまるところを知らず、あたら貴重な兵士達の命ばかりが失われていく。ここに至ってついにスタークは…、というのが第1巻。続く第2巻では、結果的に反乱を起こし、下士官だけの軍隊を作ってアメリカのコロニーを防衛することになったスタークたちの苦闘を描き、最終刊でどういうオチがつくか、という流れになっている。
基本的にこれまでいろいろあったミリタリイ系のお話では、主人公を補佐する頼りになる下士官というポジションにあるものを主人公に据え、下士官以下はしっかり者、尉官以上は総じて抜け作、という構造がちょいと新しい。上官達の抜け作ぶりのディフォルメのされっぷりがキツすぎて、戯画化のレベルまで行ってしまっているのが何だかな、と思うけど、それがあるからこその第1巻の終盤のスタークの決断の盛り上がりに繋がるとも言えるんだろうな。シリーズを通じて一番上がるのがここだと思う。
そこから先は、一兵士としてではなく、組織のリーダーとしてのスタークの戦いが描かれていくことになるんだが、こういう場合普通なら、新しい組織を作り、それなりに序列を改めて、なんて流れになりそうなものだが、ここに至ってもスタークたちが、自分の階級はあくまでも軍曹である、ってところにこだわるあたりはちょっと面白い。
軍曹ズな軍隊、ってところにスタークたちが固執するのは、彼らが望むものがあくまで「正しいアメリカ」であるから。何かを改革しようというのではなく、本来正しいものであり、それが何らかの理由でねじ曲がってしまったものを元に戻そうとするときに、現在ただいまの自分達の立ち位置を恣意的に変えていくのは間違っているだろう、という思想のもとの行動だと思う。で、この考え方は少々新鮮だったかも。もちろんその根っこにあるのは「本来アメリカは正しい」というものなわけで、そこはちょっとどうかと思わなくもないけれど、切り口としてはなかなか面白いな、とは思った。
全体としてはやや起伏に乏しく、特に主人公達が真に危機的状況に陥るような描写が薄いので、大団円におけるカタルシスも少々地味目、という不満もなくはない。SFでなくても良いじゃん、とも言えるし。ただ、前述したような組織論的なところの面白さは結構あって、そこで楽しく読むことはできた。SFとして、と言うところで言うなら、スタークたちが自分の理想とする軍のあり方を取り戻そうとする行動の上で、意外に重要な働きをするのがSF以外では出せないものである、というところでかろうじてSFしている、とも言えるんだろう。
いつものミリタリイSFなんだろなー、ぐらいの気分で読み始めたら意外に新鮮なことやってて驚いた、って点でかなりコスト・パフォーマンス高かった。ジャック・キャンベル、なかなかデキる人ね。
★★★☆
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キャンベルとスコルジーはそれぞれちょっとひねった感じが面白いですよね。で、なんというか二人共とても地に足の付いた感じがして、そこも好感が持てます。キャンベルの場合は「彷徨える艦隊」でも「月面の聖戦」でも『現場は真摯にやっているのだ』というのが前提で、現場/現実を見ないで(かつ、本来の目的?を忘却してしまって)勝手に大所高所から無理な要求を押し付けてくる士官/政治家のような上層部を批判的に描いているのが楽しいですね。<br>ただまぁキャンベルはSFよりミリタリが強いので、ミリタリよりSFの強いスコルジーに惹かれます。つーか、ストロス作品をもっと出して欲しいのですがねぇ。
上司が無能だから自分が上司になる、んじゃなく、あくまで自分はヒラだがヒラの矜持を通すんだぜ、ってのが自分的にはツボでした。弘兼健史に読ませたいぜ(w。<br>とことで次はスコルジーいきまーす。