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手塚治虫 著
カバーイラスト 手塚治虫
カバーデザイン 福田真一
立東舎文庫
私的作家考 ISBN978-4-8456-3051-6 \900(税別)
映画・アニメ観てある記 ISBN978-4-8456-3052-3 \900(税別)
様々な媒体に掲載された、手塚治虫の膨大なエッセイをまとめたもの。
…という雑にも程がある「あらすじ」ですが、実際これがすべてなんでね。ただ内容はそれなりに豊富で、「私的作家考」の方は特に黎明期の日本のマンガシーンにおいて、トップランナーである手塚(以下敬称略、でいきますね)から見たマンガのこれから、みたいなものがどうなっていくべきか、というところへの考察が前半を占めていて、ここはいろんな意味で興味深い。昭和30年代からずっと、何度も「良識」ある人びとからは俗悪なものとして攻撃されてきたマンガを一つの文化のジャンルにまで持ち上げようとしていた先人たちの苦闘の片鱗がほの見える。今となっては当時の手塚たちが目指した、児童文学に比肩しうる文化としてのマンガ、という方向での成熟はならなかったけれども、それとは別に手塚たちの努力は、マンガというものを適当な外野からの口出しなど、ものともしない確固とした文化圏を作り上げた、とも言えると思うのでそこはまあ以て瞑すべし、なのか。
そんな、マンガに関する理想論と同時に、マンガ文化の黎明期にあった、単行本と連載マンガにおける方法論の違い、なんてところへの言及もあったりするのはちょっと興味深い。この辺は今や単行本での出版というものが稀少になってしまった(一時の士郎正宗くらいですかね)ご時世からすると、こんな時代もあったのか、って気になる。
とはいえここに集められた文章は、基本的に手塚の主張のために書かれた、というよりは別の目的で用意された出版物に掲載されるために書かれた文章であるわけで、そういう意味では斬り込みが浅い、とも言えるかもしれない。「私的作家考」と言われた時にこっちが期待するのは、石森章太郎が「ジュン」を書いた時に手塚がまずどう思ったのか、大友克洋が登場したとき、手塚の本音はどうだったのか、ってところだと思う(少なくともオレはそっちを知りたかったよ、野次馬的に)けど、あたりまえだけどそういう感情の吐露みたいなものは読めない。あたりまえですけどね。でもそこは少々残念だったかな。
んでもう一方、「映画・アニメ観てある記」の方だけど、こちらはかなり読み応えがあった。手塚に限らず、この年代の方の特徴なのかも知れないけれど、とにかく見たものに対する記憶力がすごい。見た映画、アニメについて感想を述べているんだけど、こういうシーンがステキ、とかこういう芝居がグッとくる、といった記述が相当細かいところまで目が行き届いているの。自分も映画の感想とか時々書くけど、到底こんなところまで思い出せないよ、ってところだ。まあオレは観たあと呑むから台無しになってるんだけど(^^;。
こういう言い方は失礼かも知れないけれど、映画を観る、という娯楽が現在以上に高い価値を持っていた時代、観る側もまたそのスタンスが真摯で、貪欲であったのだろうな、と思った。それ故観たものをなるべく正確に遺しておかなくては、という意識が働いたのかな、なんて。何せ今とは「記録する」ことのハードルが桁違いだった時代だからね。
そんな、手塚の映画の好みが見えてくるあたりも楽しいんだけど、それ以上に「やっぱ手塚治虫ってすげえんだな」と思わせてくれるのは、アニメ映画に関する記述の部分。手塚がディズニーに非常に大きな影響を受けた、というのはわかりますが、ディズニーをベースに商業アニメとアートとしてのアニメを両立させたかった手塚治虫の立ち位置から見るアニメシーン、ってあたりは結構興味深い。ラルフ・バクシ版「指輪物語」への予想外の高評価(や、だからといってベタ褒めとかでは無いんだけどね)とか、手塚的には最晩年にあたる時代でのジョン・ラセター(とはつまり、3D-CGアニメーション)の可能性をちゃんと理解し、評価してるあたり、さすがだな、と思ったことでした。
というわけでこっちは結構、読み応えがありました。どっちか一冊だけ、ってことならこっちだね(^^;。以下、完全に蛇足ですが最後に手塚の1979年の文章を。ちょっとギョッとしますよ。
今のアニメブームを巨視的に見るとね、若者の人間不信の、逃避的な幼児化をすごく感じるわけ。なぜ実写の映画が危機でアニメに集まるのか。なぜ幼稚なメカテレビアニメにいい若いのが飛びつくのか。彼らは生身の人格に嫌気がさしているんだね。なんかどろどろして薄汚れた、政治とか管理社会のしがらみとかがいやで、といってそれに反対する前にシラケちまって、それよりはストイックでシンボリックであるマンガの世界に逃げ込んだわけ。ところが、マンガが質の低下で頼りがいがなくなって、今度は動きのマネキンであるアニメに、人格のカリカチュアライゼーションを見つけて満足しちゃってるわけよ。
1979年……(^^;
★★★
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