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2010-08-30 [長年日記]

[Books] ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選

9784150117696 中村融 編
Jacket Art 鷲尾直広
Jacket Design 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011769-6 \940(税別)

さあ、もう一度宇宙へ行こう

「宇宙開発」にテーマを絞った、日本独自のアンソロジー。表題作他6編収録。

中村融氏が編まれるアンソロジーにはハズレがないのだが、今回もすばらしい出来。宇宙SFって事だとこれまでにもいくつか良いアンソロジーがあったけど、本書はさらにテーマを絞り込み、「宇宙開発」をテーマにした作品が並んでいるそのテーマ性故か、SF的なアイデアの面白さもさることながら、それ以上に、宇宙にひたと視線を据えた人間たちの揺るぎのなさのようなものが全編に漂っていて、それがとても心地よく、感動的。以下、簡単な感想です。

主任設計者(アンディ・ダンカン/中村融 訳)

実在したソ連のロケット技術者として(というかまあ、駄作機ファン的には別の方面でも)高名なセルゲイ・コロリョフを中心にした、こうだっかも知れないソ連宇宙開発史。もとよりこの手の、リアルな宇宙開発という部分についての知識が悲しいぐらい貧弱な自分にとっては、虚実の線引きをどうするかってところすら良く判らないまま読み進んでいくことになってしまうのだが、共産主義体制という厄介な社会体制のもとで、驚くほど静謐なトーンの中、歩みを止めない技術者たちの生きざまが大変感動的。

サターン時代(ウィリアム・バートン/中村融 訳)

「主任設計者」と対をなすかのように、こちらではアメリカにおけるこうだったかも知れない宇宙開発史が語られる。宇宙開発については良く判らなくても、アメリカの歴史であればまだしもピンと来るワードが増えるせいか、かなりいろんなところでニヤリと出来る。強引とも思えるサターンV型マンセーな展開もかなり楽しいし、ラスト、木星に接近する宇宙船の映像をスリランカから眺める三人の老人、って絵を想像したら、思わずにんまりの度合いも最大級になっちゃおうってもので。

電送連続体(アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター/中村融 訳)

クラークのかなり初期の短篇を基に作られた時代背景をベースに語られる、これまたこうだったかも知れない、こちらは英国主導の宇宙開発史。R級もサターンもない英国では、人類を宇宙に進出させるのにちょっと違った方式が採用される。それは…、読んでのお楽しみ。第二次大戦においてレーダーの開発・運用にも携わっていたクラークの知識と想像力をバックボーンに、「ジーリー」シリーズのバクスターの希有壮大さがうまくミックスされた作品と言えるかも。

どうでもいい話ですが、蛇の目好きが嬉しくなっちゃうところもちょっぴりあったりするんだけど、一般的にはミーティア、ソッピーズで呼び習わされている名称をあえて"ミティーア"、"ソップウィズ"と表記したのには何か理由があるんだろうか? 菊池光的何かが発動したりしたんでしょうか(ないない)

月をぼくのポケットに(ジェイムズ・ラブグローヴ 中村融 訳)

本アンソロジーの中では少々毛色の違った、しかし心温まる掌品。良質のジュヴナイル。

月その六(スティーヴン・バクスター/中村融 訳)

バクスター二度目のご奉公。こちらはいかにも第二期、第三期ってあたり(そもそもこの人はどのあたりに位置づけられるんだろう。ブリンやベンフォードと同期って事になるのかしら)の世代のSF作家らしい技巧が冴える、宇宙開発をベースに据えた多次元解釈もの。月「その五」の世界が妙に「R.O.D」的世界を彷彿とさせるっす(w。

献身(エリック・チョイ/中村融 訳)

火星探査におもむいたチームを突如襲うトラブル。「渇きの海」や「月は地獄だ!」を彷彿とさせる、宇宙開発における取っかかり部分で起きるかも知れないトラブルに人間がどう対処していくか、を丁寧に描いた作品で自分的には本書中の白眉。なんというか、銀背の一冊として刊行されていてもおかしくない作品って感じがするな。

ワイオミング生まれの宇宙飛行士(アダム=トロイ・カストロ&ジェリィ・オルション/浅倉久志 訳)

ワイオミングの小さな街に住むドライアー夫妻が授かった、待望の赤ん坊アレグザンダー。生物学的には間違いなく人間であった彼は、だがしかし外見的には通常の人間とはかなり違った印象を与えるものだった。通常の人間よりかなり大きく丸い頭、大きく、白目がほとんど見えない目に大きく割けたように見える口。そう、アレックスの見た目は、あまりにも有名な"ロズウェルのエイリアン"そっくりだったのだ…

ヘタしたらキワモノ路線に行ってしまいそうなネタを、なにやら正統派ヒューマンロマンまで強引に昇華させてしまった感動巨編。「序」・「破」までは「うまいこと作ってるなあ」と思ったのだが、「急」に来てきて文字通り少々急ぎ過ぎちゃったかな(アレックスが宇宙飛行士としてミッションを獲得するあたりの流れに、ちょっと無理があるような気がして)、と思わなくもないけれど、SF性に加えて、文明に対して「正気になろうぜ」的メッセージを盛り込んできた構成はかなりうまい。

ということで。アポロ11号以上にアポロ8号のミッションに妙に興奮した身としては、どこかで地に足がついた描写が挟まる作品の方に少し高い点をつけちゃったかも知れない。逆にここで希有壮大さを主張されると、「や、それは今言われてもちょっと…」って気になってしまうって事なんだろうか。そこでちょっとだけ引いちゃった作品もあるにはあったけど、それでも全体としてはすばらしく読み応えのあるアンソロジー。一気に読んじゃうのがもったいない本だね。

★★★★☆


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