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うちにあるのはあと二冊だし、読んじまえーってことでシリーズ第5作、「自爆政権」。前作の終盤でちょっと話題に上っていた、人種問題に端を発する政情不安が募るスペイン。状況打開の糸口を探るため現地に飛んだオプ・センターのメイン・スタッフの一人、マーサ。だが到着早々彼女はテロリストの凶弾に斃れ、センターに衝撃が走る。一方スペインでは、新時代のフランコになろうとする高級軍人を旗頭にいただく一団と、古くから利権を貪り続けてきた「ファミリア」が暗闘を繰り広げていた。マーサを斃したのはテロリストなのか、マフィアなのか。現地に残ったセンターのFBI連絡担当官、マキャスキーはかつてのマーサの部下、エイディーン、現地の調査官マリアらと共に捜査を開始するのだが…。
序盤で殺されてしまうマーサは、ここまでのシリーズ中で毎回かなり重要な役どころを演じてきた人物。ポジション的には持ち前の有能さで主人公フッドに協力しつつも、自分の欲望の実現のためにも労力を惜しまないような人物。それ故時にはフッドにとっては一番近いところにある障壁にもなってしまう存在で、つまりはフッドの好敵手という位置づけでシリーズをスタートさせたんだけど、どうも作者側的には使い勝手が悪かった、なんて事情があったりするのかな。まあ、高名なソウル・シンガーを父に持ち、たぐいまれな外交センスを持った黒人女性、というキャラ立ての割りには、印象がもひとつ前に来ない嫌いはあったのね(^^;。
で、ここらで重要人物をひとり消して、それをきっかけにひとつ、並々ならぬ危機を演出してみよう、という作者の目論見はまあまあ成功しているんじゃないかな。ハイテクよりもマンパワー、って感じね。まあ著者達が言いたいことの一つに、ハイテク頼りで人的資源を疎かにしてるとろくなことはないぜ、ってのがあるのだと思うので、この方向性はありなんだろう。
で、そっちに目が向いた分、冒険小説的な部分のさじ加減が良い按配に効いてる上に、何名か魅力的なキャラクタ(兄は聖職者、弟は政治結社のメンバー、と言うスペイン兄弟がなかなか良いっす)を創造できたことが、良い効果を上げているんだと思う。
そうは言ってもそこはクランシー。やはり彼の思想の根っこにあるところと言うのは、登場人物のこんなセリフに現れているのではないかな。
「だが、齢のせいで変わった。同僚を失ったせいで変わった。もうひとつべつのことのせいで変わった。正しいかどうかが重要視されていないことを悟ったせいだ。法律も条約も正義も人道も国連も聖書もその他全てを味方につけているのに、それでも、とんでもないことをやらされる。高い道徳規準のせいでどんな代償を払うかわかるか、大佐? 正しいことが行えなくなるんだよ。まったく矛盾した話じゃないか」
多分これがアメリカの苛立ちの根っこにあるもんだろうなあ、と思ったことでした。
あああと、このシリーズにはもうひとつ、主人公フッドの家庭問題、って言うテーマがあるんだけど、それは次のお話で。
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