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R・D・ウィングフィールド 著/芹澤恵 訳
カバーイラスト 村上かつみ
カバーデザイン 矢島高光
創元推理文庫
ISBN978-4-488-29102-0 \1080 (税別)
冬も近いデントン。冷え込んだ街の公園の一角の公衆便所の中で、ヤク中の浮浪者がのたれ死んでいた。この時期、デントンの街には連続婦女暴行魔の存在が市民に不安を与え、さらに金満家の一人娘の行方が判らなくなり、夜の街には迷惑な暴走車が轟音を巻き上げる。次から次へと舞い込む事件の知らせにデントン署はてんてこ舞い。当然我らがフロスト警部も大忙し。しかも彼は、上司を殴ったかどで警部から格下げされて腐っている、ウェブスターなる新人巡査の面倒まで見てやらなければならないのだ。
買取物件に混じっていたので「どんなんだったっけ」と読み始めてみたら、やっぱり面白くて一気読み。創元の小さ目活字で700ページオーバーの本をどばーっと読む、ってのはやっぱり快感だ。本の重さ、(右手で持って左手でページを繰るんだけど)左手を添えたときに少しづつ変わっていく残りページの厚み、みたいなものを感じながら読み進めていく、ってのが自分にはまだ得難い楽しみに感じられる。電子書籍始めよう、ってなかなか思えないのは、これが無くなっちゃうからなんだよなー、などと無駄話。
さてフロスト警部。緻密な推論の組み立てからくる論理的な帰結、みたいなものとは無縁、あくまで直感に重きを置いて捜査を進めるんだけど、往々にしてその直感はスカを引くことが多く、そのたびに捜査はふりだしに…、という展開は、例えばモース警部ものなんかを彷彿とさせるけど、あっちがなんというか、どうにも鼻持ちならなくて好きになれないオッサンなのに対して、フロストって人はかなり好きになれるキャラ、ってのが大きな違いといえるかな。
もちろんこの「好き」は見てるのが好き、って類のそれで、絶対このオッサンと一緒に仕事をしたいとは思わないけど、でもこのオッサンがなんか泥臭く、一歩進んで二歩下がって(あかんやん、それ)は何かの偶然でその後ずさりを回復する様子を見るのはとても楽しいし、その流れの中で読者は必ずこのオッサンを好きになる。多分おんなじことが作品内のキャラクタたちにも起こっていて、一度シリーズのどれかの感想で書いたと思うけど、いい加減に見え、どちらかといえば冴えてなく、しばしば自分の思い込みで捜査を迷走させてしまうんだけど、少なくとも警官の矜恃、というところには一切ブレがないが故、少なくとも現場サイドからは欠点はあっても信じられる上司、という扱いがされてるあたりが読んでて何だか嬉しくなってくるのね。シリーズ第2作の本作では、まだその辺の描写は控えめだけど、それでもちょいちょいその「感じ」は伝わってまいりますですよ。
そんなこんなで読み返してみてもやっぱり面白かった。自分が警察小説大好き、ってのもあるんだろうけどね。未訳があと1作しかない、ってのが何とも残念ですわ。
★★★★
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