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2014-07-01 [長年日記]

[Books] NOVA 10 書き下ろし日本SFコレクション

NOVA : 書き下ろし日本SFコレクション 10(大森望/編集) 大森望 責任編集
カバー装画 西島大介
カバーデザイン 佐々木曉
河出文庫
ISBN978-4-309-41230-6 \1200 (税別)

展望と追悼と

完全新作、書き下ろしのSFアンソロジー第10弾。なんと33年ぶりの山野浩一の新作、160ページを超える、もはや短編とはいえないんじゃないか的ボリュームの瀬名秀明さんによる小松左京「虚無回廊」トリビュートなど話題作多数。

というわけでようやく完結までたどり着きました。ちょっと時間がかかったのは、先にもちょっと紹介した瀬名秀明さんの中編に取り掛かるのにちょっときっかけを掴みかねていたから。途中で切らずに一気に読みたかったもので。ということでいつものようにそれぞれの短い感想を。

「妄想少女」菅浩江

ヴァーチャルリアリティを取り入れたジムで、戦闘美少女、楓子になりきってエクササイズをする時だけが本当の自分だと思える奈緒花、50代。厨二をこじらせたまま老いていくとどうなるか、それは痛いのか、意外とそれもアリなのか。アリだよ、と思ってしまえる俺も50代(w。

近未来のエネルギー事情や介護や障碍者保護、みたいなところにSF的なアイデアが効いている。ちょっとニヤリとしつつ、意外と前向きな気分にさせてもらえた。

「メルボルンの思い出」柴崎友香

ああ、「思い出のコペンハーゲン」がいろいろ邪魔をする。今となってはいい思い出です(^^;。もちろんそちらとは全然関係なくて、なんというか、願いが必要以上に影響力を行使してしまう、不条理なセカイ系のお話。若干の訳の判らなさも込みで印象的。

「味噌樽の中のカブト虫」北野勇作

味噌樽→蟻塚はかなり苦しくないか(w。いかにも北野勇作らしいおとぼけ不条理グロ、と見せかけて実はその裏で結構本格派な侵略SFが進行していた、という。でも北野SFだから「本格」の部分はわりと投げっぱで終わっちゃう、みたいな。

「ライフ・オブザリビングデッド」片瀬二郎

いろいろあってゾンビと普通の人間がごっちゃになって生きる(半分死んでるのも多いわけだが)ことになっちゃった世界。自分の意思が無くなってしまったゾンビにとって、その行動の規範になるのは人間だった時の生活パターンだから…。本来感情移入できないはずのキャラクタに、読み終わると何だか同情しちゃう。

「地獄八景」山野浩一

なんと「NW-SF」の山野浩一氏、33年ぶりの新作SF。日本におけるニューウェーヴSFの推進者の草分けだった山野さんなんだけど、本書に収められた作品は、世が世なら眉村卓さんあたりが書いててもおかしくない、ある意味端正でオーソドックスに見える短編。これが時の流れという物なのか、などとちょっと思った。

大正航時機綺譚(たいしょうたいむましんきたん)」山本弘

大正ロマンに、ペテンのかほり、みたいな。落語テイストのコン・ゲーム。綺麗にオチてます。

「かみ☆ふぁみ!」判名練

なんというか、「涼宮ハルヒ」的SFテイストのライトノベルのキモをもう一度SF側に引き寄せてみました、的な。これ実は相当凄い事やってるんじゃないだろうか。かなり好き。

「百合君と百合ちゃん」森奈津子

時代は百合なのか? まあいいけど。こういうのを書く人だし、なんだかんだ言うても笑えるし。

「トーキョーを食べて育った」倉田タカシ

「AKIRA」の金田や山形がもうちょっとかわいげがあったら、こんな話もあったかも、なんて。自分が思う「ジュヴナイル」の範囲に収まりつつ、その中でかなりエッジ立ってるような。「かみ☆ふぁみ!」と並んでお気に入り。

「ぼくとわらう」木本雅彦

ダウン症の青年が自らの人生の幕引きにあたってやろうとしたことは…。自身ダウン症のお子様を持つ著者による、自分がどう見られるか、自分をどう見せるのか、への考察。重くなりかねないテーマだけど、そこは上手に回避して、さわやかに終わってくれる。

「(Atlas)3」円城塔

「俺だったら、台詞ではじまるような話は書かない」、という台詞ではじまるお話(w。自分にとって円城塔さんという人は控えめに言っても苦手な作家、なんだけど、で、本作も正直「何言ってんだあんた」って言いたくなる類のお話ではあるんだけど、だからと言って簡単に放り出していいとも思えないあたりが何とも悩ましい。

えーと、他人の都合で勝手に生かされたり焼き殺されたりする猫の側にもそれなりの事情はあるんだよ、たまには猫だって箱の中で暴れるんだぜって話、で合ってますかね?

「ミシェル」瀬名秀明

小松左京の未完の大作、「虚無回廊」へのトリビュート、かつ現時点での瀬名秀明という人のSF的な末来視みたいなものをがっつり盛り込んできた作品。端正で、誠実で、美しく、それゆえに刺激的じゃない。

多分瀬名さんという人は徹頭徹尾誠実な人なんだろうと思う。その誠実さはしばしば、作品の突破力みたいなものをスポイルする方向に働いてしまうんじゃないだろうか。小松左京作品へのリスペクト、瀬名さん自身のSF的ビジョン、どちらも過不足なく盛り込まれていると思うし、それはいちいち飲み込めるものとして提示されている。ただ、それは常に端正で、抑揚が効いていて、その分破壊力に乏しい。何かこう、完成度とか知るか―、的に突っ走ったところを読みたかった。特にこの分量のお話ならね。

これが「小松左京トリビュート」の掉尾を飾る作品だったら絶賛ものだったのかもしれない。でも「NOVA」のトリとしてはどうなのかな? という気はしてしまったです。

ってことで。8、9がやや低調かな? と思ったこともあり、シリーズラストの本書はフィナーレを飾るにふさわしい完成度はあった、と思う。ただ、トリの「ミシェル」はどうだったのかなあ、という気はちょっとだけする。代わりはあんのか? と言われたら何とも言えませんけど。

んでもまあ、「かみ☆ふぁみ!」と「トーキョーを食べて育った」を読めたのは自分にとっては大変な収穫でした。この二編で、終わり良ければすべて良し。

★★★★


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