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2017-01-25 [長年日記]

[Chinema] ヒトラーの忘れもの

スタッフ
監督・脚本:マーチン・サントフリート
製作:マルテ・グルナート/マイケル・クリスチヤン・ライクス
撮影:カミラ・イェルム・クヌーセン
出演
ローラン・モラ
ミゲル・ボー・フルスゴー/ルイス・ホフマン
ジョエル・バズマン/エーミール&オスカー・ベルトン
公式サイト:http://hitler-wasuremono.jp/

戦争が終わった時、デンマークの海岸線には連合国の侵攻作戦に備えた200万個の地雷が残された。その処理に当たることになったのは本国への帰還が叶わなかった元ドイツ軍の捕虜たち。彼らの多くは15~18歳の少年兵だった。簡単な教習ののち、10数名のグループに分けられ、デンマーク人将校の監視の下で地雷除去にあたる少年たち。セバスチャン達14人のグループにはデンマーク人の軍曹カールが付き、約7万個の地雷の処理を課せられることに…

本来地雷の処理を捕虜にさせる、などというのはジュネーヴ条約違反になるのだが、デンマークはドイツとは交戦状態になく、その保護国という立場にあったため、条約が適応されることがなかった上に、英国からの圧力などもあって実際に多くのドイツ少年兵がデンマーク軍人の監視の下、地雷処理にあたったというのは史実で、しかもこの事実はデンマークにとってもあまりおおっぴらにしたい性質の話でもなく、どちらかと言えば秘匿しておきたいエピソードであったようだ。

少年たちを監督するカールは、筋金入りの反ナチ鬼軍曹。年端もいかぬ少年兵であっても容赦なく危険な任務に駆り立て、死と隣り合わせの恐怖、終戦後の食糧難からくる捕虜軽視に対しても眉一つ動かさない。だがそれはカールが冷血だからではなく、当時の情勢がそこまで厳しい線引きをして管理しなければたちまち崩壊してしまう危ういものだった、という事情も加味される。つまり最初は血も涙もない下士官に見えるカール(もちろんそこにナチを憎む気持ちもあるのだけれど)も、決して本当に冷血なのではなく、その内面にはちゃんと人間味も隠れているのであり、その人間味がどのように表に出て、それによって極限ともいえる劣悪な環境(ショックシーン、結構あります。自分は三回のけぞりました)で、それでも帰国への希望だけを頼りに危険な作業に従事する少年たちとの間の関係性に変化が生まれるのか、というのがこの映画の見どころ、ということになるだろう。で、そこのところの描写はかなり上手。

見どころは多分、カールの軍服の着こなし、ってところになるかな。最初しっかりと軍服(おそらく英国の空挺部隊なんだろう。元コマンドだから地雷処理にも長けている、ということ?)を着て少年たちに対峙するカールが、いつしかネクタイを取り、シャツのボタンを外していく流れがそのまま、少年たちとの関係における「硬さ」の変化に対応していく、ってあたりの描写はうまい。この流れが一度反転する、って流れもまあ、自分は異議ありだけどちょっとしたショックという演出として活きてはいる、と思う。

そんな鬼軍曹と対峙する少年たちもとてもいい。いろんな意味で「出来上がってない」子供たちが、いきなり理不尽な環境に放り込まれて揉まれていく過程でどうなるのか、というところの緊張感と、そこにいい感じで挟まる息抜きの描写も悪くない。自分にはそっちの要素はないけど「JUNE」的な何かを愛でる人なら、セバスチャン君とかベルトンの双子君とかにも、結構たまらんものがある映画としても成立しているのかもな(^^;

というわけで全体としては非常に誠実な造りの、「良い」映画になっていると思う。その上で言うけど映画としての出来、ってところでちょっと気になるところもあるわけで。ここをネタバレ無しにうまく言う自信がないんですけど、先にも書いたカールの気持ちの変化とリアルな現実のせめぎ合いに、最後の最後で「投げた」感が残ってしまった感はあって。史実にしっかり基づいた話を作るのはいい。その上で映画的なラストを持ってくるのもいい。ただ、その映画的なラストってところで「映画的」な快感を最後に提供してもらえなかった不満、は残りました。終盤のカールの行動が、具体的にあなたは何をしたんだい? レベルで物足りないのはどうなんだ。良いラストだと思うけど、ちゃんと腑に落ちる説明は欲しかったな。それ(かなり抜け作でも可)があればもっと好きになれたと思うんだけど。

書き忘れてた。邦題「ヒトラーの忘れもの」には少々異議あり。英語版タイトルは「Land of Mine」、「地雷の国」ぐらいの意味合いか。ついでに(たぶん)デンマーク語版とドイツ語版はそれぞれ「Under sandet」「Unter dem Sand」、ともに「砂の下」って感じか。なんというか、この「砂」と「下」をベースに、もちっと小洒落たタイトルは作れなかったものか。

ちなみに本作、日本でははじめ、「地雷と少年兵」という邦題がついていたのだとか。それはさすがにナマすぎるかな、という気もしないでもないが、だからといって「ヒトラーの忘れもの」なんていう、なんだかちょっとふわっとした感じのタイトルの映画でもないと思うんだが。そもそもヒトラー忘れ物してねえし(w。

とはいえそのふわっとした感、が観客の興味を惹く効果があったとも言えそうではあるので、まあ成功した改題、とも言えるのか。ただ「忘れもの」(この『もの』をひらがな表記してくるあたり、ふわっと感のための工夫してるよねえ)なんていうほんわかムードをちょっとでも期待してると、相当痛い目を見ることになると思うんだけどな。

★★★


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