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伴名練 編
カバーイラスト れおえん
カバーデザイン BALCONY.
ハヤカワ文庫JA
ISBN978-4-15-031440-8 \1000(税別)
大森望氏と組んで編まれたアンソロジー「2010年代SF傑作選」などで知られる気鋭の作家、伴名練氏による「恋愛」テーマのアンソロジー。短編集などにも未収録の作品を中心に、9編を収録。
ご本人の後書きによると、前著「なめらかな世界と、その敵」が好評だったため、ご褒美としてこの企画が通った、なんて書かれているけれどそりゃご謙遜ってものであって、現在の優れた若い作家たちが輩出し続けている日本SF界にあっても伴名氏が一頭抜け出た存在であったが故ことなんだろう。今回は未読作品が多くなんだか得した気分だ(w。それでは早速。
遠く離れた戦地から恋人の元に届く手紙、それは亜空間通信故に送信した順番が必ずしもその順で届くとは限らなくて…
シャッフル機能付きの「ほしのこえ」とでもいうか。ここに一応の敵であるケツァルケツァルなる異星人たちの不思議な生態がスパイスとしてかかっている。静謐な佳品、といった味わいか。中井紀夫さん、「タルカス伝」からずいぶんイメージ変わったなあ。
かつてソ連で行われていた超能力研究。日本企業から出向した私は、そこで超能力者たちが集中している街が東欧の小国、ロベリアに存在すると聞かされる。早速その街、ホルムへと赴き、そこで不思議な姉妹と出会う…。
共感覚をテーマに、どこか古き良きSF感をたたえたお話、と自分には感じられるのは、この世界観から何とはなしの古き良き東欧SF感、みたいなものの香りを感じ取っているからかも。もちろんお話は、そんな一種のナイーブさだけで押し切ったりはしないわけですが。
人の「誕生しきるまで」と「死にきるまで」に一定の時間がかかる世界。生まれいずるものは徐々にその姿をクリアにし、死にゆくものは逆にその姿が霞んでいく。生まれてくる孫の姿を死ぬ前に一度はっきりと見ておきたい「じいちゃん」なのだが…
これまた何とも言えぬ懐かしさを感じてしまう、ペーソス溢れる作品でかなり好き。作者の和田毅さんは実はとあるよく知られた作家の別名で、こちらの名前を聞くと「ああ、そういうことか」と妙に納得してしまう。いったい誰なのかはすでにwebなんかでも明らかになっていますけど、念のためここでは伏せておきますね。ネタバレ気味にこのお話を別のタイトルで表すならば、「ゆっくりと彼岸へ」って事になるかと。これでモロ解りですね(w。
ラノベの世界で一作スマッシュヒットを飛ばしはしたけどその後はぱっとせず、三十路間近になってしまった僕。ほとんどヒモみたいな生活を送っている僕にとってただひとつの拠り所は、かつてのデビュー作のモデルになった虚実綯い交ぜの少年時代の思い出、だったのだが…
んと、なんて言うかな、「最終兵器彼女」を隠し味に語られる「なろう」系にすがりついてる中年予備軍の悲哀、みたいな。「恋愛編」を謳っている本書の中では一番恋愛していると思う。
通信インフラだけが現代と同レベルに発達した中世。天性の美声を持つカストラートとその恋人とのやりとりで描かれるこの世界の成り立ちとは…
「アイオーン」などとも共通する、どこか一分野のみが異常に発展した昔、を舞台にした物語。そこの所にワンダーはある、のかも知れんけど描写的にちょっと不満。中世世界が舞台なのに、その発達したインフラに関する用語は現代社会で使われている言葉と同じなの。コードレスとかデジタルとかギガバイトとか。ひとつにはそこで混乱させたくない、という配慮と、もう一点、作品のタイトルとも引っかけたいって思惑もあったのだとは思うのだけれど、ここはやはり、中世ヨーロッパ的な語彙のデザインが必要だったんじゃなかったのかな、多少わかりにくくなったとしても。ちょっと残念賞かも、ですね。
既読。感想もおおむね変更なし。ただ「NOVA」に収まってたらとても良いな、と思ったものが本書に収まっているものを読むと意外と「ん?」と思うところもあったかも知れない。これ、「百合」かも知れんけど「恋愛」ではないよねえ。
同じマンションに暮らしていると思しき女性。出勤の時間帯も同じ、歩く先も同じなのだが特に会話などもすることはなかったのだけれど、その日は様子が違っていた。いつもの信号、のはずが今日ばかりはいっこうに青に変わる様子がないのだ。青信号を待ちあぐねてしょうことなしに始まった会話だったが…
これもショートSFとして素晴らしく端正でかつどこか変、という、言い方は悪いけどオールド・スタイルで組み上げられた作品、という感想。もしかしたら本書で一番好きなのはこれかも知れない。
既読、つか身も蓋もない感想だな(^^;。前よりはちょっとだけ取っつけたような気もするけど、それはドット絵(wの部分でちょっと笑えただけ、という…
中南米の列強が世界に覇権を唱える世界、一人の絶世の美女を巡って各界の名士達が求婚に訪れる。そんな彼らに彼女が応えた望みの物とは…月。
という出だしからして「竹取物語」ベースの綺譚なわけですが、そのお話は随分ベクトルが違っていて、こちらはむしろ(舞台が南米と言うこともあって)マジック・リアリズム、とも違うか、マジック・バロックSFとでも言えそうな作品になっているような気が。とても面白かったのですが、自分はバカなのでラスト一行をどう判断したら良いのかが、イマイチ良くわからぬ(^^;。
ってことで粒選りのアンソロジーと思いましたが、それ以上にすごいな、と思ったのは編者である伴名さんの熱量。各作品の解説、巻末の解説におけるSFビギナーに向けたアンソロジー・ガイド。いずれも大変な熱量で、もしかしたら本書のキモはむしろそちらの方にあるのかも知れぬ。そこには賛否もあるだろうとは思うけど、ここまで念の入ったチュートリアルは久しぶりなのではないか、つかオレは50年ぐらいSF読んでるけど、こういうのに出会ったのは初めてかも知れない、し、オレに関しては手遅れだ(w。でも、今SFに興味を持った人であれば、これはとても素敵なガイドブックとしても機能するのじゃないだろうか。ロートルは放っといてもらって良いですけど、若い人(えらそう)が本書で背中押されたら良いな、とは思いますよ。読んでくれる人が減ってしまったら、新しい本が出ないものね。
★★★☆
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