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J・G・バラード 著/野口幸夫 訳
NW-SFシリーズ 3
ISBN4-900244-02-3 時価
1968年から76年にかけて、バラードが発表した短編9編を収録。冒頭の作品、「最終都市」は書下ろし。
正直自分にとってバラードは、親しみのある作家とは言えない。一応「結晶世界」とか「ヴァーミリオン・サンズ」とか「夢幻会社」とか、読んだ憶えはあるのだけれども私の中ではイマイチ記憶に残っていないタイプの作家、といえるかな。私は吾妻さんみたいに砂浜で銹びた自転車眺めてぼーっとすることでは至福は得られない、と言うことで。
先日ちょっとお話しした、軽石庵史上最大の戦いの結果、買い取らせていただいた本の中に入っていたのがこの一冊。すいません商売ものに手を付けてしまいました。どちらかと言えばバラードは苦手なんですが、この本、たぶん一度手放したら当分読めないだろうって事で頑張って(仕事さぼって)読んでみた。で、第一印象は、そうだな、バラードってこんなに透明感のあるお話を書く人だったのか、と言うことだろうか。なんというのかな、乾いていて、妙に見通しが良い世界になってしまった、今とはちょっと違うけどそれほど先の話でもない世界、みたいなものを書かせたらこの人は天下一品なのかも知れない。スピルバーグの「太陽の世界」が持つ、妙な寂寞感とアフター・ホロコーストのやるせなさ、そんな世界で妙に生彩を持って空を切り裂く銀翼の煌めき、てのは、確かにバラード的世界であると言えるよなあと思った。やるじゃないかスピルバーグ。と言うところで各作品の短い感想を。
本書のための書下ろし。この作品が、この短編集のトーンを決めているのだと思う。ぱさぱさな透徹感と皮肉混じりの視線。私たちが今享受している文明が、複雑怪奇に見えながら、実は案外簡単に模倣され、そして同じような末路を迎えうるものとしての再製も可能なものでしかない、と見る視線が強烈。透明感のある序盤が、お話が進むにつれて透明度を失っていくあたりも、"悪い冗談"として秀逸。
前作同様の舞台設定と小道具揃え。盛りを過ぎた人類文明、その次に来るものはなんなのか、「次」にたいして「今」を生きる人類はどう接するべきなのか、を思索する。これまた前作同様、飛行機という存在(しかもアグプレーンってあたりが、なかなかどうしてマニアックですね)がかなり重要な意味を持つ。原語版ではこの作品が短編集のタイトルになっている。
おおう、星野さんのマンガにありそうなお話だな、これは。とはつまり、日本のSF者たちにバラードが与えた影響というものの大きさを著わしていると言えるのだろう。本書に収録された作品の中では古い部類に属するだけに、あまり策を弄したようなところもなく、ひとつのアイデアで勝負するSF短編として楽しめる。これは時代背景を考慮して読まないといけないだろうな。
山田和子氏の解説に曰く、
記憶の奥底に沈み込んだ宇宙旅行と、無意識から上昇してくる"覚醒の島"への妄想の飛行という二つの焦点を持つ時空楕円構造体の内に、無名の人間の内宇宙の風景をクリスタライズされた傑作
なんだそうだ。そうか? 普通につまらなくはないお話、ってだけではないの?
続く4作は、ワンアイデアをぴりりと刺激的な結末でまとめる、短編SFのお手本みたいな掌品たち。ロートルSFファンにはうれしいスタイルだな。「通信衛星の天使たち」、しばしば登場する「神童」がテーマで、それらの「神童」が幼少のみぎりは確かに「神童」なのだけど、長じるにその「神童」ぶりが喧伝されなくなってしまうってのはどういうんだろう、ってテーマ。そんな、定期的に現われる「神童」の中に"ロバート・シルバーヴァーグ"って名前があるのは、これはバラードのいたずら心だったりするんだろうかね。
ラストを締めるのは、まるでゲームブックみたいな構成のクセ球。いかにも70〜80年代のSFシーンを連想させる作品と言えるだろうか。そのトリッキーな斬新さを認めるのにやぶさかじゃあ無いけど、それだけでは日本語で読んでるSFファンを納得させるまでにはいかないんじゃないかな、というところだろうか。ここはちょっぴりで良いから、謎解きのためのヒントが欲しかったかも知れないな。
てな感じで。なかなか楽しく読ませていただきましたです。ええ。
(★★★☆)
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