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小林泰三 著
カバーイラスト 森山由海
カバーデザイン 森川由紀乃
角川ホラー文庫
ISBN4-04-347007-x \590(税別)
「人の本質は善である」との意識が浸透した少しばかり未来の社会。だが犯罪に手を染める者は減らない。本来善であるはずの人間なのになぜ、邪悪な行為に走る者が出るのか? それは人の本質とは関わりなく、その者の環境、あるいは脳内の微妙なバランスの問題に過ぎない。この思想から開発されたのが"人工脳髄"だった。それは人の脳の特徴的な部分の突出をあらかじめ抑えることで、凶暴性や異常な性衝動などを前もって抑制する装置。今や"人工"が取れ、"脳髄"と言えばそれを指すものとなった人工脳髄の急速な普及は、人間社会に初めて平温をもたらしたかに見えたのだが…。表題作を含む中短篇、ショートショート11編を収録。
帯にいわく、目眩めく怪(グロ)異と論(ロジック)理の競演!!
だそうで。確かに小林泰三作品には、たたみかけてくるロジックの積み重ねが、あるところで「え、そういう話でした?」って風に巧妙にすり替えられ、結果うひゃあな展開になってしまう、って魅力があるかも知れない。表題作の序盤なんかはまさにそう。正確にはロジックと言うよりはディベートみたいな弁論の積み重ね、と言えるのかも知れないけど。正しいと見えるロジックを次々と積み重ねていくのに、結果はどんどん望んでいない方向に自分が持って行かれる、そこから醸し出される恐怖が小林泰三的ホラー、なんでしょうかね。以下、各話の短い感想。
ユートピアとディストピアの境目ってのは微妙なんだよーん、ってお話。"脳髄"をつけないでいる主人公のロジックとつけている周りの人々のロジック、ともに目指している物は同じなはずなのに、そのディティールのズレがどんどん修復不能になっていく。コミュニケートは出来るのにコミュニケーションが成立しないという怖さがじわじわと。そして最後に、そこまでの前提すらひっくり返しかねないコワいお話が待っている。タイトルに注意、なんですね。ああこれはちょっとネタバレを誘発してしまったかも知れないな。
"名前を知られる"ことはすなわち自分の死命を握られるのに等しい、てのはファンタシィではちょくちょく見かける縛りだけど、これはそいつを半分ぐらい裏返しにしたお話と言えるだろうか。名前をつけることが作り出す恐怖。ダークな中に微妙にジュヴナイル成分が濃いめに注入されてるあたり、結構私の好みだったりして。
アイデアとその料理の仕方の切り口の鋭さが気持ちいいショート・ショート2編。収まり、では「同窓会」の方がちょい上かな。「停留所まで」も楽しいんだけど。
4部構成のやや長めの短篇。これが怖いのは、その4つのパートの分量の差なんだと思う。これもある意味、ロジックのズレが怖さを生んでいる作品と言えるか。私が一番怖いなあと思ったのはパート1です。
ショート・ショート。2ちゃんのSF板でこういうネタあったなあと思っちゃった私はちょっと困ったちゃん。
Cがあの暗黒ホラー軍団(違)の大家が産み出したアレであることが分かればあとはまあなんだ。わたしゃあの大系、少々苦手なんでなんとも言えません。
タイトルからもぷんぷんしてくるグッド・オールド・SF風味の掌品
ラストに掌品3編。「綺麗な子」、読んだ覚えあるなあと思ったら、これは「玩具館」(異形コレクション)に収録されていた作品であった。道理で。これはロジックじゃなくモラルのズレが産み出す恐怖、ってことになるんだろうか。「写真」、「タルトはいかが?」はショート・ショートの常套手段、ミスリードを誘ってそこから怖さを演出するスタイル。
と言うところで。どれも粒より、ではあるんですがうーん、オレはやっぱもうちょっとSF成分が欲しかったなあってところかも。「ホラー文庫」って書いてあるのを買ってつける文句じゃないのは重々承知しておりますが。
(★★★☆)
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おくさまお大事に。
どもー。晩飯はオムライスにシーチキンのサラダでさくっとな。