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山中恒 著
角川oneテーマ21
ISBN978-4-04-710201-9 \705(税別)
遅れて乗った植民地による国力拡張競争を無理やり遂行すべく踏み込んだ日中戦争の泥沼は、日本経済に重要な影響を与え、その苦境の解消のため様々な政策を実施する日本政府。だがその施策はあまりに場当たり的の物であった上に、関係する官僚たちの縄張り争いが、必要な施策の実行をあるときは遅らせ、あるときは施策自体の実効性を骨抜きにしてしまい、なんら効果を上げることが出来ないまま、最終的に「ドカ貧」か「ジリ貧」の二者択一を迫られるところまで追い込まれていく…。多くの戦時刊行物に当たって入手した戦時における日本の経済状況から、そもそも日本に太平洋戦争を開戦する能力があったのかを考察し、その上で現在ただいまの日本の右傾化の風潮に警鐘を鳴らす本。
著者の山中恒氏は、「おれがあいつであいつがおれで」や「あばれはっちゃく」などの児童文学で良く知られる作家。そんな山中氏が、自分の子ども期のことを書き残そうと思って、調べているうちに、戦時氏の研究にのめり込み、稼いだ金を古書店につぎ込み、大量の戦時出版物を購入し
ていくうちに、児童文学とは別のラインとして戦時史関係の書物を発表した流れの中で、ある意味これも、憂国の情抑え難く著した書物と言えるのかも知れない。全体的な構成は「マクロ経営学から見た太平洋戦争」に近い物があるが、あちらが戦争遂行、という側にややシフトしていたものだとしたら、こちらは戦時における国民の経済的な状況について考察していくような本と言えるか。
そういうわけで全体的な論調や分析の結果に関してはそれほど目新しい物があるわけではない。個人的に知らなくて、ちょっと「へえ」と思ったのは、厚生省という官庁が設立されたのが1938年という、真珠湾攻撃のわずか3年前というタイミングで、その設立の一番の目的というのが、今も残る社会保険制度を普及させることで国民から合法的に保険料を徴収し、それによって財源確保の一助とすることにあった、と言うあたりと、それと同様に国庫を潤す必要性から国民に貯蓄を奨励し、その資本の徴収に当時の郵政省が重要な働きをした、と言うあたりかな。
全体として、国家レベルのプロジェクトの中でも最大級にリソースを使うことが必要になる戦争というイベントを前に、日本という国があまりにも準備も覚悟も不足していたことが如実になるという部分はそれなりに説得力はあるのだが、読了して「そのとおりだ」と膝を叩いて納得できるような本にはなっていないあたりは少々残念か。理由はいくつかあるんだが、一番大きいのは書き手の側がしばしば(気持ちは分るんですが)少々ヒステリックな方向に論調が入ってしまっているというところにあるんじゃないかと思う。本書「はじめに」に曰く、
だが、戦争を知らない二世三世、それも戦時下に一般庶民と比べものにならない楽な暮らしをしてきた高級官僚などの二世三世が、世襲的に偉そうに国の中枢権力にのさばり始め、「戦争のできる普通の国・日本」にしたいなどといい出し、戦争を知らない若い世代が同調する空気さえ醸し出した。「戦争をする」ということは、ただ単に軍隊のドンパチですむことではない。それには国家の総力を挙げて精緻な戦争システムを整備しなければならない。しかも国民は全力でそれを支えなければならない。かつての日本人には、それが徹底できず、戦争に負けた。では今の日本人にはそれができるか?
とあるとおり、本書はかつての戦争の問題点を洗い出すだけではなく、終戦から占領下、そして55年体制を経て現在に至る日本の国家システムに今も残っている(と著者が主張する)、開戦直前の日本の政治のメカニズムにも強く異議を唱えたい、というポリシーも見受けられるのだが、それがポリシーで、かつそこに著者がかなりの危機感を抱いているが故にしばしば、筆が滑ってしまうところが見受けられてかなり残念。人を納得させるときには、時に冷静すぎるくらい冷静な物言いが求められると思うのだが、そこで書き手の方が感情を吐露しすぎてしまうと、そこまでに積み上げてきたデータの有用性までも、思わず疑ってかかってしまわれるマイナス面での影響を強めてしまうのじゃないかと、いらん心配をしてしまうのだった。基本的な主義主張は納得できるのだが、しばしば挟まるこういった感情的な部分が前に出る箇所で、読んでるこっちが妙に引いてしまうところが随所にあるあたりはちと残念。
残念といえばもう一点、かなり多くの資料にあたったことを述べてはおられるが、具体的にどういう書物にあたったのか、いわゆる「参考文献」を全く上げていないのもマイナスポイント。本文中で引いた出版物についての言及もあるにはあるが、それとは別にやはり、執筆の上で参考にした出版物の一覧を上げるのは、本書を元に何らかの議論を拡げていく上で必要不可欠のパートであると思う。そこをオミットしちゃっては、自分の主張だけを一方的にやらかして書き逃げした本、と取られても仕方がないと思ってしまうのだよな。
基本サヨな私としては、本書の大部分をそれなりに受け入れられるけど、一冊の本で、かつ著者の信条を強く押し出したい類の書物として読んでみたら、いろんなところでやっちまった的ハズレ感も同時に感じてしまう一冊。散見されるややとっちらかった感も併せて、残念賞だなあ。
★★★
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