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ネルソン・デミル 著/白石郎 訳
カバー装画 影山徹
カバーデザイン 岩郷重力
講談社文庫
ISBN4-06-273898-8 \1114(税別)
ISBN4-06-273899-6 \1181(税別)
アン・キャンベル大尉暴行殺人事件の暗部に潜むどす黒いものをまのあたりにし、軍務を退いたわたし、ポール・ブレナー。だがそんなわたしをかつての上司、ヘルマン大佐は放ってはおかなかった。突然ワシントンのベトナム戦没者記念碑、通称"壁"にわたしを呼び出した大佐は、その壁に刻まれた戦死者の中に一人、味方の弾によって殺害された人物がいる、という。1968年ベトナム。最大の激戦地のひとつ、クァンチの市街戦に参加していたベトナム兵の一人が、アメリカ軍大尉によって一人の中尉が射殺される瞬間を目撃し、その一部始終を彼の兄弟宛の手紙にしたためていたのだ。戦死した兄弟からその手紙を記念に持ち帰った一人の米兵によって、30年ぶりにその事実が明らかにされたのだった。それが真実ならば、真実を明らかにし、正義をたださなければならない。自らもその戦場に身を置いていたわたしに、大佐はベトナムに赴き、手紙の主を捜し出し、事実を確認して欲しいというのだ。大佐が全てを語っているとは思えないし、そもそも最初から最後まで不可解なものに充ち満ちた任務であることは承知の上で、それでもわたしはベトナムに赴くことを決意する。かつて自分に消すことのできない重いものを背負わせることになった地に、再び向き合うために…
上下巻あわせて1600ページという大部を通じて描かれる、ベトナム戦争に関わったさまざまな人々の、さまざまな物語。ここしばらく、軽口の多いヒーローが多く少々食傷気味な気分もあったデミルの作品、この作品の主人公、ポールもまたその系統のキャラクタではあるのだけれど、今回はその軽口野郎が向き合う事件というのが、アメリカにとってはすさまじくヘヴィなベトナム戦争であり、ポール自身18歳で歩兵としてベトナムに赴き、凄惨な実戦を経験した、という過去もあるせいで、たとえば「プラムアイランド」や「王者のゲーム」に比べればずいぶんとそっちの傾向は控えめになり、変わってわたしがデミルの最高傑作だと今でも思っている、「誓約」の味みたいなものがずいぶん久しぶりに帰ってきたような気がして、そこは素直に喜びたい。わたしがデミルに期待しているのは、こういう、すさまじいまでの重さを抱えた登場人物が、その重みに苦闘するようなお話であったわけで、いやあ、久しぶりに読みたかったデミルを読ませてもらったような気分になった。そこはとても嬉しい。
もちろんここで描かれる物語の中で、"真実"だの"正義"だのというのは、あくまでアメリカ側から見たそれであって、しばしば「そりゃあオタクだけの都合でしょ」といいたくなってしまうところもあるし、ベトナムにおける勝者であるかつてのベトコン出身の人々の描き方なんかにどうしても少々意地悪方向でのバイアスがかかってしまっている と思えてしまうのは否定できない。ついでに、主人公のポールが旅の中で自らのベトナム、というものに向き直り、何かを掴んでいくという、魂の過程みたいなものについてはそれなりに読み応えもあるのだけれど、一方で過去の殺人事件が現代に何をもたらすのか、という、一応お話の本筋であるべき部分が終盤にきて少々手薄な読み応えにしかなっていないのが少々惜しいか。正直このラストでほんとにいいのか? と思ってしまったのも確かなところで。
そうはいってもこのお話、アメリカ人の自己満足の感動物語、という批判があるとしたらそれはそれで説得力のある批判であるとは思うのだけど、それでもこのデミルはかなり私好み。私がこうであって欲しい、というデミルの小説に久しぶりに出会えた感じがあるのですね。一応「将軍の娘」の続編、みたいな言われ方をしているけれど、んで確かに読まないよりは読んでおいた方がいいとは言えるけど、読んでいなくても充分に楽しめる本ではあります。なによりクソ分厚い本を読んでいく楽しみに充ち満ちた一作。や、楽しませていただきました。
(★★★★☆)
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