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2007-08-26 [長年日記]

[Books] 災いの古書 

4151704094 ジョン・ダニング 著/横山啓明 訳
カバーデザイン スタジオ・ギブ
ハヤカワ文庫HM
ISBN978-4-15-170409-3 \900(税別)

2年に渡るつきあいの中で、私はエリンがどういう精神状態にあるのかを即座に察することが出来るようになっていた。今の彼女の気持ちは、何か心に引っかかりがあるのだが、それをどう切り出したらいいのかが分っていないような状態。話を急かすでなく、彼女自身が話したいと思うまで辛抱強く待った末、エリンが私に語った話とは、彼女に新たな弁護の依頼が回ってきたと言うこと、そしてその依頼人のために、私が持つ警官時代の経験と古書の知識を活かして欲しいと言うこと。

彼女がその話を持ち出しかねていたのには理由があった。依頼人のローラとエリンは幼なじみの間柄であり、そして二人の間柄は過去のとある出来事がもとで冷え切ってしまっている、ということにあったのだ。

警官上がりの古書店主、クリフ・ジェーンウェイものの第4弾。前作で知り合った女性弁護士、エリンとのつきあいが続く中、彼女のもとに舞い込んだ弁護依頼が再び彼を不可解な事件に引き込むことに…てなお話。今回のテーマはサイン本。変哲のない本が、サインひとつでとてつもない価値を持ってしまう世界を背景に起きた殺人事件にクリフが挑む。

このシリーズの魅力は、あちこちにちりばめられた古書の蘊蓄を楽しみながら、腕利きの警官でもあったクリフがその経験と直感を最大限に発揮して、事件の真相に迫っていき、その過程で事件と古書の世界が複雑に絡み合っていくところを楽しむ、と言うところにあるわけだけれど、本作では(元)警官としてのクリフの活躍の方に重点が置かれ、古書サイドのお話がそこに上手く有機的に絡んでくれていない恨みがある。ついでに言うなら、通常のミステリとしての魅力、って所もちょっとどうかなあ、と。ネタバレにならないように説明するのは難しいんだけど、お話の序盤で真犯人が打つ(あとで打ったと分るんだけど)初手が、それじゃあまりに根拠薄弱というかリスク高すぎじゃないかそれは、と思えてしまうのだな。なので終盤のどんでん返しが、そりゃ確かにびっくりするけど、びっくりする反面、それはありなのか? とも感じられ、クライマックスをはらはらしながら読み進められないあたりがやや残念。

もちろんそうは言ってもそこはダニング、脂も乗ったシリーズで最初から最後まで退屈することはないのだけれど、やはりこのシーズの魅力と言えば古書。そっち方面の書き込みをもうちょっと深く突っ込んで欲しかったなあ、と。

そんな中、激しく印象に残ったのは、序盤、クリフが台頭しつつあるネット書店についての考察を述べるくだり。

インターネットの急速な発展が、大きな変化をもたらすことになろう——後に、その通りになった。誰でも瞬時のうちに、おどろくほど簡単に知識を手にすることができる。しかも、その知識を深めることなく「専門家」を気どることができる。本は金と同じ意味になりさがり、そうした風潮が小売商や一攫千金を狙う掘り出し屋を駆逐してしまうだろう。

あいたたた(^^;)。本は金と同じ意味になりさがりってあたりに、それでもクリフなりの矜持は感じられるんだが、この世界でそれなりに名前を売ったクリフさんでも、リアル古本屋の将来を暗く見てるってあたりは何ともはや。そしてネット書店であっても最終的に勝ち組に残るのは少数の、使える金を大量に持ったところのみになるってあたりをしっかり予見しており、それはおおむねその通りになってきていることを考えるにつけても、オジサンこの先、どうしていったら良いんだろう、などと本とは関係ないところで考え込んでしまったことでしたよ。

死の蔵書(Dunning,John/著 宮脇孝雄/翻訳 DanningJohn/著 ダニングジョン/著)

クリフ・ジェーンウェイもの第一弾「死の蔵書」。こいつは掛け値無しの大傑作。

★★★☆


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