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シオドア・スタージョン 著/若島正 編
カバー装画 松尾たいこ
カバーデザイン 祖父江愼 安藤智良(コズフィッシュ)
河出文庫
ISBN978-4-309-46346-9 \850(税別)
「海を失った男」に続く若島正氏編による日本版オリジナル短編集。表題作他5編収録。
読むのに結構時間がかかってしまった。苦手意識って程でもないのだけれども、スタージョンという人は自分にとってはちょっと特殊、というかどう評価したらいいか、いまだに良く判らない人だったりする。ブッ飛んだ面白さに充ち満ちた、というのではないんだけど、妙にどこか引っかかる「味」のようなものも同時に感じられ、気になることは気になるような人ではあるんだよな。自分が何となくSFに求めているような"SFらしさ"は稀薄なんだけど、だからといってこれはSFとは言えねえんじゃねえの? とも言えない、あたりの微妙なところに位置しているような作家、といえるかな。
ということで簡単にそれぞれのお話の感想を
限りなく非SF作品に近いテイストの掌編。ま、健忘症の男が錆びた自転車を眺めるだけでもSFになり得るのだから、家を出た少年が家(故郷)に戻ろうとする人々と触れあうことで自分の存在と居場所について初めて深く考えはじめた瞬間、だってSFにならないわけはないだろう、と(w。解説でもふれられているとおり、これ単品で読むのと、別な作品と絡めて読むのでは味わいが違ってくると言うことなのだろう。
こちらもSFテイストは皆無。そもそも初出は「プレイボーイ」誌ってことで、スタージョン本人も一般小説のつもりで書いたものなんだろう。ホントはへなちょこな若造が精一杯虚勢を張って突っ張ってみる話。ま、ヘタレが一歩、「男」方面へ踏み出すようなお話と言えますか。
多分こう言うのがスタージョンらしい作品、といえるんじゃないだろうか。人の心を読んだりするのはSFじゃあ良く見るアイデアだけど、人が今、何を必要としているかを判る能力、ってのはかなり珍しい。そんな力を持った、ちょっとやなヤツ風味も併せ持った男が巻き起こす騒動とは? てなお話。「必要」であるということがいつもその人にとって良い結果をもたらしてくれるとは限らない、ってあたりの捻り具合も面白い。
ブルどーザごと特異点に紛れ込み、別の世界に飛ばされた男が、元の世界に戻ろうとするお話。スタージョンには「殺人ブルドーザー」(『地球の静止する日』に収録)なんて話もあって、ブルフェチな人なのかなあなんて思ったんだけど、ご本人、ブルドーザーの運転士経験がある人なんですな。故にディティールが自然に描き込めるってことなんだろう。
お話は(残念ながらブルドーザーには絡まんけど)アイデア一発勝負的小品で、ピリッとしつつもちょっと変。
親子二代の少々狂騒的なコメディSF。オチへの持って行き方が上手くて少々ニヤリとさせられる。
小さなアパートに暮らす人々の、それぞれの人間模様。本書で言うと「必要」と対をなすようなお話と言えるかも知れない。
コンタクトSFと言えなくもないが、それ以上に全編を通じて語られるテーマは、SFはいったん置いといて、人が普段抱えている物というのは、抱えていなくてはいけない物なのか、本当は抱えなくて良いものを後生大事に、または捨て方が判らないまま持たざるを得ない状況になっているに過ぎないのか。そこに何らかの解決法は存在するのか、というようなもの。ある意味カウンセリングSFとでも名付けたらよいような作品だ。
ということで、全体としては奇想でぐいぐい押してくると言うよりは、ちょっとした奇想をベースに、人が人としてあるとはどういうことなのか、自分と人の違いとは、違っているのは良いことなのか? みたいなあたりにちょっと突っ込んでくるようなお話が並んでいる。最後の作品で語られる、「平均」ってどういうものなのか、「平均」を形作る物って何なのか、ってあたりを登場人物の一人が解き明かしていくあたりの流れは、それほど派手ではないけどなんだか感動的。少々説教くさいと思える部分も無くはないが、ゆったり、しみじみとした良さがある作品集だと思う。なかなか、良いですね。
★★★☆
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