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ナンシー・クレス 著/金子司・他 訳
カバーイラスト Stephan Martiniere
カバーデザイン 岩郷重力 + WONSDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011704-7 \900(税別)
遺伝子操作技術の発達は、人類に新たな地平を開こうとしていた。眠りのメカニズムの解明と、その抑制が可能になったことで、眠りを必要としない人間が誕生する。眠りによって阻害されていた様々な可能性が解放されたことで、無眠人と呼ばれる新しい人類は様々な分野で目覚ましい成果を人類社会にもたらしていくのだが…。表題作他6編収録。
「プロバビリティ…」シリーズがどうにもこう、読んでてイライラする作品であったのに対し、こちらに収録された中短篇はどれもいい具合にスパイシーで、さりげないメッセージ性が込められた作品集となっている。日本独自のチョイスで編まれたこの作品集のテーマみたいなものがあるとすれば、それはメカニズムとしての人間を改編する事で生まれる新たな展望への考察、みたいなものと言えるだろうか。バイオSF、と括ることもできるのかも知れないけれど、ここに集められたお話たちはもう少しピンポイントに、限られた分野を強く指しているように感じられた。以下、それぞれのお話の簡単な感想。
「無眠人」をテーマにした中編で、無眠人たちの登場から間もない時期を扱った作品。タイトルになってる"スペインの乞食"とは、持てる者が持たざる者に対して見せる施しの精神はどこで境界線を引かれるのか、そもそもそこで境界線を引くという行為に出ること自体、出だしで何か間違った前提があったのではないか、みたいな比喩。(凡人によって生み出された)超人と凡人のせめぎ合いというのは、「スラン」あたりを引き合いに出すまでもなくオーソドックスな「種」テーマのSFであって、そこの所の安心感と、お話に絡んでくる「家族」って隠し味がいい具合にブレンドされている。
こちらは無眠人ならぬ無眠犬がテーマ。ただ、ここでも大きなウエイトを持つのは「家族」というワード。なんだろう、全然関係ないんだけど「怒りの葡萄」でさんざん苦労させられるコンボイの中の一般人たちの姿がちょっとだけオーバーラップした。
こちらは「プロバビリティ…」の軍人パートのお話部分を拡げた(濃縮した?)ようなエピソード。ここでも「家族」のネタが顔を出す。短いながらもSF的な皮肉の効いた一編。
「プロバビリティ・ムーン」の序盤のベースになった作品でこれは既読。そう簡単に無眠人は作れるものじゃないんだぜ、な話なわけだ、こちらは。
本書の中で一番短い作品。それ故にアイデアのもたらすショックの部分がかなり効く。一種の比喩だと思うけど、記憶の重さで人間は壊れてしまう、という前提はちょっと怖い、し、それは無眠人のシリーズとそこはかとなくリンクしているんだろうか、なんて深読みもしてしまったりして。
スペースオペラこそが至高、のはずがそれを上手く伝えられないままずるずると人生を送るワナビーの悲喜劇、と見せかけて実は…。リアルはどっちだ、的騙し絵風味がちょっと痛く(オレもスペース・オペラは好きだもの)、最後で100%納得はできないまま終わってしまう作品。笑うべきなのか、涙するべきなのか、どっちだ? (w
真の芸術を生み出すのは真にその出自がナチュラルな「人間」だけなのか? ってのを隠し味に進められる、これまた一種、「種」をテーマにしたSFと言えるか。出だしで用意したミステリ的な部分の謎解きに全然やる気を見せないあたりがある意味、クレスのクオリティなんだろうな(w。
「種」をメインテーマに、「家族」を通奏低音に語られる、意外なくらいオーソドックスな作りのSF中短篇集で、こいつはなかなか。いきなり「プロバビリティ…」に突っ込む前に、こっちを読んでおいた方がいろんな意味で幸せな読書タイムを持てるのじゃないかと思うよ。おすすめです。
★★★★
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