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渡辺洋二 著
カバー 松本哲郎
文春文庫
ISBN978-4-16-724910-6 \590(税別)
過去千数百年にわたって外敵の侵攻を防ぐ要衝として機能してきた海、だが航空機の登場によってこの天然の要塞は著しくその重要性を減じることになる。そのような状況下で発生した近代戦において、日本は本土防空にどんな対策を講じてきたのか、緻密な取材を元に、苦闘続きの日本における本土防空の内実を解き明かしていく本。
久々、商売ものに手をつけるシリーズ。注文頂いた別の本を引っ張り出す時に、となりにあったのを見かけてちょっと読んでみるべえか、と。航空戦史系で高名な著者の、本書はキャリアの最初の一歩となる作品。勤めを辞め、貯金を切り崩しながらの取材と著作活動での苦労話が「あとがき」で語られていて、そこでまずちょっとほろりとさせられる。大量な取材を元に、実際の本土防空戦が繰り広げられることになるかなり前、日本が近代戦の準備を始める大正10年まで遡り、やがて来るであろう航空主体の戦争指導において日本がどのような手を打ってきたか、と言うところから歴史の流れを紐解いてゆく。
先に述べたとおり、四方を海に囲まれた日本は、千数百年にわたって外敵の侵入を許さず、これがために自国を戦場とした経験を持たないために、防御戦についての意識が全く発達しないまま近代までやって来たが故に、それまで絶大な効果を発揮してきた海が、それほど頼りにならなくなった時に、自らの国土がどれほど脆弱な状態に置かれているかについて全く認識できていなかった様子が明らかにされていく。ここに、下手に勝ち戦を重ねてしまったがゆえに軍部に蔓延してしまった攻撃偏重、精神論が先に立った戦争方針が加わり、さらに陸軍と海軍のセクト主義が加わって、何ら有効な方策が打ち立てられることのないまま、現場の兵士たちに過酷なしわ寄せが寄っていく、と言う図式はまあ、前の戦争における日本の戦いっぷりを解説したさまざまな著作物に共通する。
勝ち戦が続いている間はそれでも良いが、一旦負けが込み始めるとそのしわ寄せは一気に加速し、それを挽回するには非常な努力が必要になるのだが、残念ながらそんな状態でも、高級軍人たちに現状を認識する能力はなく、なし崩し的に事態は悪化していく。排気タービンを装備し、高々度性能に優れた航空機がアメリカにあることはとっくに分っているのに、それに対抗できる機体をついに用意することが出来ないまま本土防空戦になだれ込み、高々度での運動性に著しく劣る迎撃機に、体当たり攻撃を余儀なくさせるような状況でも、防空部隊の司令官が「然れども、今や全て遅し。依然、無理を強行する意外に手段なし」
などと嘆きつつ(そこに辛さや申し訳なさがなかったとは思わないが)、同じことをやらせるしか手がない時点でまあ、話は「終わってる」のだが誰も「終わりです」と口に出せないまま無為に貴重な人命が失われていったのが、ミッドウェイ以降の日本のありようだった、と言うのを改めて確認させられる結果になってしまうあたりは、日本の負け戦を検証していく本を読んでいるといつも感じるやるせなさ満点ではある。
日本の国力を考えたら、この作戦(攻めダルマで押しまくる、防禦は考えない。そもそもハナからそこまで余裕がない)以外にやり様はないんだけど、だったら何よりも引き際がどこか、を明確に設定してないといろんなところで不幸になる、ってのを改めて見せつけられてしまう本。で、かつての戦争でのこの有り様の根本的なところは、現在ただいまの日本にも案外色濃く残ってるんじゃないかという気がして、そこが少々気になるんだよな。拙いことが起きた時にどうする、ってところをちゃんと考えてない国、って思えることがとてもたくさんあるのだよね。
★★★☆
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