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ジョン・ダニング 著/横山啓明 訳
カバーデザイン スタジオ・ギブ
ハヤカワ文庫HM
ISBN978-4-15-170410-9 \1000(税別)
受ける受けないにかかわらず、前払いで5000ドルの仕事。訝しいところはあるにせよクライアントとの商談に出かけたクリフ。鼻持ちならない代理人が持ちかけた商談とは20年前に物故した裕福な馬主の妻の蔵書の鑑定。だが彼女が生前蒐集していた古書たちには、なぜか不可解な歯抜けがあるという。蔵書の鑑定と抜き去られたと思われる古書の行方の解明を依頼されたクリフだったが、依頼された案件の裏にはさらに不可解な事件の匂いがあった…。
殺人課刑事から古本屋に転身したクリフォード・ジェーンウェイを主人公に据えたシリーズ第5弾。膨大にして貴重な古書を蒐集していた妻、競馬の世界に没頭していた夫という夫婦がともに物故したとき、残された子供たちとその周辺の人々の人間模様にどんな波紋が立つのか、という、いつもの古書の蘊蓄に加えて、アメリカの競馬事情に関する描写などにも抜かりのない(ダニング自身、厩務員の経験があるのだそうで)、ある意味欲張った構成の本。競馬の世界と古書の世界を行き来しつつ、クリフがもしかしたらあったのかも知れない殺人事件を念頭に置きつつ失われた稀覯本の行方も追いかけていくという構成で、かなり欲張りな造りになっていると言えるだろう。
そこの所の欲張りぶりはかなり嬉しいし、「愛書家」と「愛書狂」は違うんだよ、みたいな、著者の控えめなメッセージなんかもほの見えて(この伝で行くと『R.O.D』のキャラたちはどっちかというと愛書狂だよなあ、なんてちょっと思った)、そこの所は興味深かったけど、イントロダクションがあり、テーマ的なところが明確になり、その題材に切り込んでいくというミステリの過程において、しばしばフォーカスが甘くなってしまっているのではないかという気がしてしまう。お話を通して読者を引っぱる何か、ってところが少々稀薄なんだな。総花的構成が逆に読み手の興味を集中させる上での妨げになってしまっている、みたいな。
ネタバレにならないように説明する自信がないので曖昧にも程があるだろうって書き方になってしまうんだけど、キャラクタのブレ、お話の世界観の揺れなどがちょっと看過できないくらいのゆれ幅で、これはあの傑作、「死の蔵書」もあの世界に繋がる作品世界なのだろうかと思えてしまい、「そうだっけかなあ」と思いながらページを繰っていってしまうことになってしまった、というのが偽らざるところであって、そこがかなり残念。面白かったんだけどいろんなところが残念でもあった作品、だったかな。
それにしても
前々作では古本を扱うものの立ち位置の強固さを語りながら、前作ではそんな古本屋の立場が揺らいできたことに言及し、本作ではそもそもの主人公の立ち位置、という部分にまで疑義を挟んでしまった本シリーズ、この先どこへ行くんでありましょうか。心配ばかりが先に立ってしまうのですが。
★★★☆
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