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2011-04-09 [長年日記]

[Books] NOVA 3 書き下ろし日本SFコレクション

9784309410555 大森望 責任編集
カバー装画 西島大介
カバーデザイン 佐々木暁
河出文庫
ISBN978-4-309-41055-5 \950(税別)

もう少し、突き抜けたい…かな

全編書き下ろしで構成された日本SFの現況報告、第3弾。コミック1編を含む9編収録。

とはいえとり・みきさんの「SF大将 特別編」は第2部を新規に加筆したもので、まっさらな書き下ろしとは言えないんだけど。そして今回はオール男性作家。これはこれで珍しいことかもしれない。それでは短く感想を。

「SF大将 特別編 万物理論 [完全版]」とり・みき

吾妻ひでおに「私はこうしてSFした」あればとり・みきには本作あり、みたいな。万物理論と見せかけて、実はSF一物限定でホラを吹く。そしてこの作品がこのアンソロジーのオープニングに置かれてる、ってのが実は結構な伏線だったりするんだった(w。

「ろーどそうるず」小川一水

神林長平に「魂の駆動体」あれば小川一水には本作あり、みたいな。近未来テクノロジ系SFてな括りになるのかな。セルフ・フィードバックと対話型AIを備えた近未来のバイクの数奇な一代記。ここに控えめながらもちょっとした人間ドラマなんかも絡まって、コミカルにしてなんだかハートウォームな読後感が待っている。かなり良いです。

「想い出の家」森岡浩之

藤子不二雄に「やすらぎの館」あれば森岡浩之には本作あり、はかなり苦しいかな。森岡さんの作品、「星界」シリーズしか知らないのである意味新鮮だった。「メガネ」のアイデアはちょっと「電脳コイル」に通じるところもあるんだけど、ストーリー自体は向こう様より、かなり黒い方向にシフトしているような感じもあるかも。拡張現実がもたらす光と影、みたいな話と言えるのかな。

「東山屋敷の人々」長谷敏司

筒井康隆に「家族八景」あれば長谷敏司には本作あり…相当苦しいな、そろそろやめて良いですか。大森さんはアンチ「サマー・ウォーズ」型、みたいな表現をしていたけど、「家族」にミームの概念を絡めてきた本作は、「サマー・ウォーズ」程には旧家的大家族のありようから何かを引き出してどうにかしようとするよりも、割と緩めのポスト・ヒューマンSF傾向にシフトした作品と言えるのかもしれない。地味に好き、かも知れない。

「犀が通る」円城塔

編者から前もって「あんまりSFっぽくない物を」ってリクエストが出されていた作品だそうで。出来上がってきたのは、バラードは錆びた自転車に言及し、円城塔は苺ジャムのトーストに言及することでSFしてみる、みたいな? SFとしてどうとかの前に、日本語の取り回しの面白さというか、文章のたたみ掛け方の面白さというか、そういうところが微妙に面白いと思った。

でもSFなのかなあ、これ。実験小説的な匂いは確かにあるけど。

「ギリシア小文字の誕生」浅倉三文

こう言うのも記述SFの範疇に入るんですかね(入らないだろ)。ノリ的には「バブリング創世記」とかの方向性なんだけど、そこにどうしようもないエロ属性が追加される(褒めてます)。関西系のノリだよなー、これは(w

「火星のプリンセス」東浩紀

前巻に収録されていた「クリュセの魚」に続く物語で、本書では完結せず、「NOVA」シリーズ内での一種の連載小説的ポジションになる物の第1話。続きがあることが前提であるゆえに、まずはいろいろネタ撒いてみました的なお話になっていると言えるかな。悪くはないけどこの方の原案であるアニメ「フラクタル」でも感じた、妙にあちこち手垢がついとるなあ的感想が、本作にも当てはまる感じではある。あと、なんだろな、東さんって方は意外に根っこのところが保守的な思想で固まってる人なのかなあと言う気はした。良し悪しは別にして。

ま、そんなことは別にしても、自分の作品に「火星のプリンセス」ってタイトルを付けたからにはそれなりの覚悟はあるんだろうな? 続くお話のタイトルが「火星の幻兵団」とか「火星の交換頭脳」だったら、個人的には拍手してあげたいとは思ってますけどね。

「メデューサ複合体(コンプレックス)」谷甲州

谷甲州さんのガテン系宇宙SF大復活。山岳系冒険小説も良いけど、やっぱりこの方にはハードSFをどんどん書いて欲しいので、これは嬉しい1作、なんだけど、それ故こんなボリュームじゃ満足できないよ。もっとがっつり読ませて欲しいな、と思った。面白いだけに消化不良感も大きいと思っちゃった。

「希望」瀬名秀明

「万物理論」が目指す物のひとつがエレガントな解であったとしたら、「希望」が見せる解とは…。とり・みきさんのマンガで幕を開けた本書、そのオープニングにエンディングがカウンターアタックをしかけてきてる。

自分の中で瀬名秀明という人は、SFマインドの側のとんがり具合を物語にうまく反映できない人、ってイメージがあるんだけど、本作もそう言う方向にカテゴライズされる作品といえるだろうか。お話側の技巧というか演出というか、かなり頑張っていると思うんだけど、SF側のアイデアの説得力を物語の側がちゃんと吸収して、読者に理解できる形の表現で提供しきれていないという気がする。実はかなりすごいテーマが、なんだかあやふやに流されちゃった、みたいな気はするのね。

てことで。全体に端正な作品が集まったアンソロジーであることは確か。ただその端正さが、なんかこう、突き抜け感みたいなものを阻害してしまったような感じはなくもない。どれも良いお話なんだけど、なにかこう、突き抜けたがつん感が足りない感じはしたかなあと言う感じ。もう少し無茶な話も読みたかったような気はしますな。

★★★☆


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