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2011-04-01 [長年日記]

[Books] スティーヴ・フィーヴァー ポストヒューマンSF傑作選

スティーヴ・フィーヴァー : ポストヒューマンSF傑作選 : SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー(山岸真/著) 山岸真 編
Jacket Art 小坂淳
Jacket Design 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011787-0 \960(税別)

自分がかなりすり切れていることを痛感した

「SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー」第3弾。今とは異なる姿に変容した人類の姿を描いた短編集。表題作を含む12編を収録。

「スラン」とか、割と苦手な部類のSFなんだよなあ、などと前もって予防線を張ってみる(w。ポスト・ヒューマンという、ある意味SFだけが突っ込んで考察できるジャンルといえるかな。それゆえにここにはとても「エッジ」な作品が並び、そのエッジの切れ味がなかなか自分の腑に落ちないまま、なんか斬りつけられたなあ、的もやもや感しか残さない、ような作品達がずらりと並ぶ。うーむ、これはつまりオレがSF者としてかなり磨り減っちゃった、って事に他ならないのかな、なんて事も思ったり思わなかったり。ってことでそれぞれのお話の簡単な感想を。

死が二人をわかつまで(ジェフリー・A・ランディス/山岸真 訳)

ある意味宇宙SFとか時間SFとか、すでに編まれたアンソロジーの方に入っていてもおかしくないような作品。時間というもののスケールの大きさに圧倒される掌品なのだけれど、それ故にオチの付け方がこれで良かったのかな? って気がしないでもない。短い作品ほどラストの一行には破壊力が秘められていて欲しいと思うんだけど、そういう意味じゃあちょっと普通すぎるんじゃね? ってところだな。

技術の結晶(ロバート・チャールズ・ウィルスン/金子浩 訳)

比較的近い未来における、人体改造テクノロジにまつわるビター・ストーリー。オチでちょっと首捻る。ん? どーしました奥さん的な意味で。ショート・ショートしてはそれなりに端正にまとまっているとは思うけど。

グリーンのクリーム(マイクル・G・コーニイ/山岸真 訳)

人がその姿を変えて生活することが普通になっている社会。人口増加がそのバックにあると言うことなのかな。生身の身体をいったん休眠させ、意識を写し取った一種のロボットがその個人のかわりに社会活動に従事する。その体制ゆえに生まれた、切ないラブストーリー。お話の世界観はなんというか、ボブ・ショウのスローガラスがそこらにあってもおかしくない雰囲気なんだけど、そこで語られるのはこの人の代表作、「ハローサマー、グッドバイ」に通じる切なさに満ちている感じ。お話の語りのオーソドックスさがとても好き。

キャサリン・ホイール(タルシスの聖女)(イアン・マクドナルド/古沢嘉通 訳)

テラフォーミングされた火星でその生涯を終えようとしている巨大機械と人間の関係性、そこに被さる、それら全てを別の位置から統べる事になった変貌した人間との関係性を描く。マクドナルドはベルファスト在住の作家だそうで、本書にもそのロケーションがもたらす影響のような物が感じられたりする。

ローグ・ファーム(チャールズ・ストロス/金子浩 訳)

ちょっと厄介な方向に進歩しちゃったゲシュタルト生命体のお話、なのかな。どういうわけだかオチが読めてしまって、しかもそれが正解だったものだから個人的にはちょっと点数低くなっちゃうんだけど、トゥイストの効いた、ショート・ショートの見本みたいな作品と言えると思う。しかもそんなオーソドックスな作品を書いてるのがストロスだってあたりはちょっと驚きだ。んまあストロスだけに、妙などろどろぬちょぬちょな描写ってあたりに抜かりはないんだけど。

引き潮(メアリ・スーン・リー/佐田千織 訳)

進んだ人類。ではなく何かの理由でハンデを背負わされることになってしまったことに対して、未来の社会がどういう対応を取るのか、と言う部分にスポットライトを当てた作品。静謐にしてしみじみと切ない。

脱ぎ捨てられた男(ロバート・J・ソウヤー/内田昌之 訳)

「技術の結晶」ともちょっとリンクする作品なんだけど、こちらはビター成分よりもスラプスティック成分が多めかな。自分がソウヤー作品が好きだからなのかもしれないけど、読みやすさと面白さって点では本書で一番の作品なのではないだろうか

ひまわり(キャスリン・アン・グーナン/小野田和子 訳)

「種」としてのヒューマンへの関わりとはちょっと違う形で、ナノテクを介して変貌させられた人類の世界を描く。このナノテク部分のアイデアがかなり秀逸、なんだけどお話の展開はややもっさりした感じがなくもないかも。「家族」ってテーマと「男女」ってテーマの二本柱が、いまいち上手く絡み合ってない感じがするのだな。

スティーヴ・フィーヴァー(グレッグ・イーガン/山岸真 訳)

ある意味イーガンにしてはおとなしめ、といえなくもないか。ナノテクと超AIがもたらした、クラウドと化したパーソナリティを復元しようとする試みの先にある物は…みたいな話、で合ってますか? 人間を構成する物は案外少ない、人間を構成する物は実はあまりにも膨大、さてどちらが真実に近いのだろう、なんて事をちょっと考えた。

ウェディング・アルバム(デイヴィッド・マルセク/浅倉久志 訳)

「スティーヴ・フィーヴァー」ではばらけてしまったパーソナルな情報を、どうにかしてまとめることができるようになったらどうなるか、的なお話。本書の中で一番のヴォリュームの作品で、その長さがアイデアのキレをちょっとスポイルしちゃったんじゃないだろうか。若干お話の展開に付いていけなかったかもしれない。こういうところで自分のSF者としてのすり切れ具合を感じてしまうんだよなあ。

有意水準の石(デイヴィッド・ブリン/中原尚哉 訳)

非実在なんたらかんたらがちょっと話題になってる昨今、飛躍的に進歩した人類文明の中にそんな「非実在」的な何者かが増殖し続ける社会で何が起きるか、みたいな。そこらあたりを紹介していく序盤から中盤は結構ニヤニヤしながら読めるんだけど、お話が動いていく中盤以降になると、すり切れたSF者的に「え? なんですって?」的展開が待っていてちょっと辛い。ブリンあんど中原さんの鉄壁タッグゆえ、決してつまらない訳じゃあないんだけど。

見せかけの生命(ブライアン・W・オールディス/浅倉久志 訳)

はるかな未来、人類の全ての歴史を追加していく巨大な博物館に収められたアイテムを調べる研究員が見つけた、とある物に記録されていたものとは…。

よかったよお、最後にオレでもちゃんとわかるお話が来たよー(w。ある意味ロマンティック時間SF傑作選あたりに入っていても問題のない、大変に品の良い短編で、しみじみとラストを飾るにふさわしい作品だと思う。

と言うわけで、出だしはかなり面白く、中盤あたりでやや引っかかるものを感じ、それでもラストで救われたような気になったアンソロジー。読むのにやたら時間がかかってしまいましたが、これはしんどい作品ばかりで読む気が起きなかった、なんて訳ではなく(まあ後半それもなくはなかった。自分がSF読みとしてかなりだめになってきてるなあと痛感しつつあるです、確かに)、自分の読書タイムが、2月からお仕事タイムに浸食されちゃっているからです。ここも何とかせんとあかんよなあ…。

★★★☆

本日のツッコミ(全4件) [ツッコミを入れる]
taoy@笹塚 (2011-04-07 23:00)

私もずっとバタバタしていて、やっとこれを読みはじめました>「スティーブ フィーバー」。表題作はイーガンの今までの作品の中で一番好きかも。ローグファームは、ストロス好きとしては堪らなく好きです。木星へ行くってのがなんだかタウザーを思い出されて嬉しくなりました。ソウヤーは、面白いけど相変わらずハマれません。ウェディングアルバムを読んでる途中です。「グリーンのクリーム」秀逸ですなあ。

rover (2011-04-08 23:57)

出だしは「お、良い感じ」と思ったんですが、自分は「ウェディング・アルバム」でかなり失速しちゃった感はあります。頭の中で必死に「いやいや、これはつまらなくない作品なんだ」フォローが鳴っているにもかかわらず、何かこう、乗れないという(^^;)…。ラストのオールディスにいろいろ救われたような気になりました(w。

taoy@笹塚 (2011-04-09 07:06)

読み終えました。「ウェディング・アルバム」で失速しちゃいましたか…。面白いなあ、私は「ウェディング・アルバム」が一番面白かったです。ストロスとブリンは両方共オチが読めるにも係わらず、どうにもブリンには乗れない…。全体として「なんだこりゃー」な作品は一つもなくて、収録されている作品よりも読者としての自分の方に「擦り切れた」感を感じてしまうところは共通ですね。<br><br>と云いつつ、「彷徨える艦隊 6 ヴィクトリアス」は一気に通読してしまいました<br>。大好きなんですよね、このシリーズ。何故なのか自分でも判らんのですが。宇宙戦争SFと云えば「老人と宇宙」がウォルフガング・ペーターゼン監督で映画化されるそうで…。誰が緑色になるんだろう…。

rover (2011-04-10 01:17)

うあ、「彷徨える艦隊」来てるのかー。私も大好きです。毛色は違うけど「シーフォート」のノリに近い物があって、そこがいいのかな。<br>まずは未読分を消化しなくては。順番的には次は伊藤計劃さんの「ハーモニー」。これもハードル高そうだなあ(^^;)


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