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恩田陸 著
カバーイラスト おがわさとし
カバーデザイン 岩郷重力 + WONDER WORKZ。
ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
ISBN978-4-15-208437-8 \1800(税別)
環境破壊が極限まで進んだ地球。今やそんな地球に残るのは世界各国からこの汚染された星の汚染除去に携わることを押しつけられた日本人だけ。彼らにとってわずかに残る成功の路は、過去の東京の移籍に建設された「大東京学園」の卒業生としてエリートコースに乗ること。過酷な予備審査を通過して集結した新入生達は、大東京学園の正門で、自分達がさらに壮絶な学歴レースに叩き込まれたことを知るのだった…。
軽石庵さんから借りて読んだ、初恩田陸でございますが、なんだろな、予想してたのとはかなり違ってて、意外なくらい無責任な方向に針の振れたエンタティンメント作品になっていた。言ってみればこれは、恩田陸的「オトナ帝国の逆襲」。荒廃した近未来が20世紀に向けて投げまくる秋波の懐かしさと悪ふざけを楽しむようなお話。そこを比較対象にするのであれば、「オトナ帝国」が昭和への限りない郷愁を盛り上げつつも、最後の最後には「いつまでもそこに浸ってんじゃねえ」と敢えて突き放す覚悟を見せてくれたのに対し、こっちは「昭和いいよね、もう一回出来たらいいかもね」的なところに着地しちゃっているあたり、案外覚悟足りてねえな、って気もしてしまう。
大ざっぱに「昭和」で括られるいろいろなことどもの捌き具合の面白さ、悪ふざけと悪趣味と少なからぬ荒廃感を背景に、意外にストレートなジュヴナイルが展開するあたりは結構自分好みではあるんだが、あれだ、山本弘作品でちょいちょい発生する舌打ち感、あれが本作でもちょくちょく起きてしまうのと、あともう一点、これはこの作品の責任と言うわけではないんだけど、今読むからこうなってしまう、と言うところでのおさまりの悪さのような物は、本書を読んでる間、ずっと感じてしまうわけで。
本書の世界というのは、テクノロジと効率を優先しすぎたばかりに、自分達の住環境に修復しがたい瑕疵を残してしまい、日本人はその、自分達が産み出したどうしようもなく厄介な物の後始末を引き受けざるを得ない状況に、否応なく向き合わされている世界なのだよね。この作品が書かれたときにそこは想定の範囲外だったんだろうと思うけど、今読むことでこの本は、3.11以降の日本のありように対する痛烈な批判を含んだお話としても読める物になってしまっているのだな。
物語が登場したときと、それが時代を経て別なメッセージを持って「しまう」ような現象を垣間見たような気分。そこの所の先見性(と言って良いのかな)はそれでこそSF、だと思うし、それだからこそ「オトナ帝国」との対比で「覚悟」がもう一味足りなかったんじゃないのかな、ってところも同時に感じたわけで、基本たいへん面白く読めた(ボリュームもたっぷりだしね)反面、どこかに引っかかりも感じたことも確かな一作ではございました。
あ、あとカバーと帯の按配、なかなか良かったっすね(Jコレクションに限るんだけど)。
★★★
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