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2013-08-09 [長年日記]

[Oldbooks] ちびちび読んでた

画像の説明画像の説明画像の説明画像の説明病院での精算待ちやらあちこちへの移動の時のお供にぽちぽちと2ヶ月ぐらいかかって読んでいた本。再読ですが、アルヴィン・D・クックス 著、岩崎俊夫・吉本晋一郎 訳、「ノモンハン」(朝日文庫)全4巻、リンク先はamazon(ユーズドのみ)。
ハルハ河畔の小競り合い
剣を振るって進め
第二十三師団の壊滅
教訓は生きなかった

日本最強と言われた関東軍が大敗を喫したノモンハン事件を、当時の関係者に丹念にインタビューを積み重ねて再現した労作。著者のアルヴィン・D・クックスは自分的にはアーヴィン・D・クックスという名前の方がなじみがある。自分にとっての戦記系情報の一番の根っこであるところのサンケイ新聞社刊、「第二次世界大戦ブックス」の中の一冊、「天皇の決断」を書いた人。訳のせいなのか、切り取り具合が上手くないのか、どうかするとこのシリーズはナマクラな読後感しか残さない本が結構あったのだけれど、その中では本書の完成度はかなり高かった記憶がある。そういう意味でかなり信用銘柄ではあったのね。で、再読したときもそこの所の緻密さとか、公正さって所にはかなりの信を置きながら読めたと思う。

ノモンハン事変そのものについては多くの本が出ていて、その中では本書はどちらかというと古い方の本に位置づけられているのかも知れないけれど、それでも本書のルポルタージュ文学としての価値はいささかも下がることはないと思う。

おそらく日本陸軍史上最強であったと思われる軍団が、その技量、精神を持ってしてもソ連軍の物量とシステマティックな兵站と戦術には到底抗し得なかった、という事実、そのような状況下にあってもなお、兵士達の運命よりも軍旗の運命の方に優先順位の上位をつける、という時代錯誤がまかり通ってしまう情けなさ。

基本的に関係者へのインタビュー主体で構成された本で、それ故にややニュアンスが弱く感じたり、何かと悪名ばかりが先走る(もちろんそれも故無いことではないのだけれど)辻政信が、少なくとも事変の序盤では結構冷静で、抑揚の効いた人物に見えたり、あとはインタビューを並べるせいで、どうしても読み進めている間に時系列の混乱が生じたりと、読んでて「おや?」と思えるところもあるにはあるんだけど、それでもここからは、現在ただいまの我が国の色々な体制に見られる長所、短所が凝縮されていると感じられる。

原書では紛争が発生する前段階にも相当な量の記述があったらしいのだが、そこは日本人ならそれなりに知っていることも多かろうと言うことで割愛されたと言うことだが、そちらもちょっと読んでみたいな、と言う気はした。

[Oldbooks] ちょっと前までは逆だった

9784769826682もう一冊、こちらはこの間買取りさせていただいた中に入っていた本、岡田和裕 著「ロシアから見た日露戦争 -大勝したと思った日本 負けたと思わないロシア-」 (光人社NF文庫、書影はamazon)。

日露戦争の発生から経過、講和までをロシアの側から見た著作。遅れて帝国主義的国策をとった日本にとって、満州と朝鮮はその植民地政策上どうあっても奪われるわけにはいかない生命線であり、それ故に勝ち目は相当薄くても一戦交えざるを得なかった、と言うのが日露戦争における日本の立場だったわけだが、ではロシア側にはどういう事情があったのかと言うと、それは主に退潮傾向にあったロマノフ王朝において、国民に一種のドーピングを施して、一時的にせよ国民の不満を別な方向に逸らしたかった、と。極東の小国相手に北の大国ケイロニアロシアが負けるわけはないのだから、景気の良い勝ち戦のニュースでパッと盛り上がろう、と言うことだったみたい。

ロマノフ朝最後の王であるニコライ二世は決して暗愚ではなかったが決断力に欠け、肝心なところで一貫した方針を指し示すことが出来なかった上に、彼に助言する立場にあった者たちは皆、国家より自らの利益を追求する者ばかり。結果、指揮系統は混乱し、戦争指導には齟齬が多発し、人心はさらに王室から離れていく。このあたりは危機感の違いもあるだろうが、上から下まで一丸となって事に当った日本とは好対照。特に自らの力量を冷静に見極め、常に戦の「納め時」を考えていた明治の軍人達の姿は、ほんの四半世紀ばかり後に同じ組織に属していた人々とはまるで違っている。もちろんこの時の陸軍軍人達の成し遂げたもの自体が、逆に麻薬的な効能を与えてしまったと言うことなのだろうけど。

それはともかく、これまであまり深く語られることの無かったロシア側の人々の様子がやや詳しく見えてくるあたりは興味深い。戦略自体は間違っていなかったが、それを下部に徹底させる努力を怠ったがために兵の不評を買う羽目になり、最後は敗戦の責任の多くを背負わせられることになるクロパトキン、一応名将とうたわれていたステッセルは判断力に乏しい上に軍務よりも現地の政商と組んでの吝嗇行為の方に熱心だった、と言うエピソード(このあたりは何となく近代戦以前に良くあったエピソード、と言う感じがする)、本国を出たときにはそれなりにちゃんとしていた物が、歴史的にして極めて困難な大遠征を続けるうちにどんどん理性を磨り減らし、肝心要の対馬海戦が始まる頃には単に怒りっぽい老人になってしまっていたロジェストヴェンスキー、なんてエピソード、この戦争を通じてある意味ロシア側の最重要黒子と言えたであろうウイッテの動きなど、250ページという比較的軽めのボリュームにしては読みどころの多い本だった。


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