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こちらは仮想戦記ですが、川又千秋「翼に日の丸」 (書影はamazon)。詳しい経緯は良く知らんのだけど、川又さんには「ラバウル烈風空戦録」という作品があって、そちらの主人公であった風間の筆になる前述の書を再構成したもの、というのが本書という事らしい。「ラバウル…」の方は未読で、かなり前に買い取らせていただいた本の中にコンビニ・コミック版で何冊かあったのをちらっと読んだ程度。なのでそちらとこちらでどのくらい差があるものなのかは良くわかりません。
んで本書、とりあえず「僕が考えた凄い戦闘機が無敵の大活躍で戦局ウハウハ」的なものではなく、かなり展開は地に足がついたものになっている。著者がやっているのは、まず真珠湾攻撃の帰途に、南雲(本書では東雲)艦隊が偶然真珠湾に向かう米機動部隊を発見、ここで「エンタープライズ」が沈没、英太平洋艦隊との交戦において、「プリンス・オヴ・ウェールズ」、「レパルス」撃沈に加えて、航行不能になった空母「インドミタブル」の拿捕成功という形で、戦争の出だしで彼我の戦力差に微妙な補正をかけてきている事。
珊瑚海、ミッドウェーの海戦はほぼ史実通りなんだけど、ここで先の戦力差の微妙な補正と、仮想戦記ですからそうだよね、的なその後の展開へのいい方への按配具合が効いてきて、続く戦局の展開が微妙に変わっていく。この展開を現場にいる風間の視点と、地の文による戦況説明を交えて語っていくところはさすがに川又千秋で、上手いと思う。多少戦記物に触れてきた者であれば、「あのときこうしていれば」という部分があったときに、その「こうしていれば」を100%満たす事はせずに、ある程度満足できる結果を提示してやる事で、お話の引っ張り力を維持している、という感じかな。
全体としては、先に読んでた失敗続きの日本軍のエピソードの幾つかを無かった事にして、かつ、そこそこ納得できる範囲での幸運を足した事で、日本は1945年8月を越えて戦争を戦い、世界は我々が知っているそれとはもしかしたらかなり違ったものとして続いている事になるのかも知れない、という示唆と共にお話は終了する。そこまでの話の流れ自体は納得できるし、いろいろ示唆に富むところもある。この辺はSF作家、川又千秋の腕なんだと思う。
ただ、構成に少々難あり、または書き足りないところを相当端折ってしまった、というところもあるのではないかな。お話の畳み方の駆け足っぷりが、ラストに向けての余韻を台無しにしてしまっているような気がしたよ。
核兵器や特攻に対する著者の考え、例の厄介な「誉」エンジン問題やら、史実ではスカ引くだけだったあんなことやこんなことに対しても、それなりの見せ場を用意した上で、それなりの「川又史観」みたいなものまで込みで完結したエンタティンメントを作ってきたところは高く評価します。上巻、中巻は文句なしに面白いとも思います。ただ、終わりに向かっていろんなものを放ったらかして終わっちゃった感、も拭いきれないんだよな。
なにげに米駆逐艦の艦名に「クラーク」、「アシュトン」、「スミス」とかついてたり、これ、「妖星ゴラス」引っ張ってんのかなあ的な、SF側の人へのサービスもあったりするんだけど、それを言い出したらSF者的には、川又さんにはもっとSFの方にシフトしたお話を書いて欲しい、と思ってしまうのも確かなところなわけで、そこは結構、微妙っすね。
最後に駆逐艦名でどうでもいいツッコミ。第二次大戦中の米駆逐艦には、戦死した駆逐艦長の名前が付くのが通例なので、「ウルスラ」、「クローバー」、「ルグィン」と一人の名前を分けるのは考えられない上に、そもそも女性の名前が駆逐艦名になるとは考えにくいんですけど…。
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