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2014-09-01 [長年日記]

[Books] SFマガジン700【海外編】 創刊700号記念アンソロジー

SFマガジン700【海外篇】(山岸真/編集) 山岸真 編
カバーデザイン 岩郷重力 + Y.S
ハヤカワ文庫SF
ISBN978-4-15-011960-7 \1060 (税別)

こっちは文句なし

「SFマガジン」創刊700号記念アンソロジー。山岸真が編纂した海外編は12編を収録

うむ、国内編と違ってこっちは注文付けたいところはほぼ無いと言っていい。そりゃ個別の作品にはそれぞれ思うところの温度差はあると思うけれど、一冊のアンソロジーとしての完成度は素晴らしく高いと思う。なので余計なことは最小限、それぞれの感想に行きます。

「遭難者」アーサー・C・クラーク(小隅黎 訳)

1947年に書かれた作品、ということを考えれば、いかにもクラークらしい最新の科学情報を踏まえた末来視、といえるか。宇宙SFにしてファースト・コンタクトSF。一時クラークの本職でもあったレーダー技術者からの視点も交えた静謐な作品。

「危険の報酬」ロバート・シェクリイ(中村融 訳)

SFマガジン創刊号「SFマガジン」、記念すべき創刊号の完投を飾った作品。主人公をシュワちゃんがやっていたら「バトルランナー」になってただろうけどそこはシェクリイ、スピーディーな展開の中に少し先の未来へのヴィジョンを盛り込んで見せる。その未来がまさに、現在のわれわれが良く知っている、過剰なマスコミによって仕掛けられる行き過ぎたイヴェントに視聴者が無責任に熱狂する世界、というあたりはまさにSFだけが書き得る世界。

本誌で発表された時には小松左京さんが激賞したという。さすがに後付けの自分らが今読んで、そこまでのインパクトは得られるものではないけれど、それでも疑似イベント的狂騒感の果てにマスコミのみならず、大衆もまた容易にタガが外れてしまう物だぜ、という、現代にも通ずる(近)末来視に対する批評的な態度もしっかり押さえているあたりは、やはりさすがと思う。

「夜明けとともに霧は沈み」ジョージ・R・R・マーティン(酒井昭伸 訳)

「星の光、いまは遠く」などと同じ、<一千世界>シリーズに属する一遍。雰囲気的には「フィーヴァードリーム」的な味わいか。異世界における怪異に対するSF的なものとホラー的なもののアプローチの相克がもたらすものは…的な。個人的にはホラーサイドからもう一手、という気はしないでもないけど、でもまあこれ、SFだからなあ(^^;

「ホール・マン」ラリイ・ニーヴン(小隅黎 訳)

火星に放棄された異星人の基地を発見した調査隊が発見したものは…。なんというか、これがどちらかというとグッド・オールド・SF的に読まれること自体、今が21世紀なんだということなのか。本編が発表された1974年にこれを読んでいれば、こいつはどこか難解さもたたえた一作という位置づけになったのだと思う。読み手のリテラシーの成長、ということなのかも知れんけど、改めて読むことの面白さ、みたいなものをちょっと感じた。

「江戸の花」ブルース・スターリング(小川隆 訳)

サイバーパンク・ムーヴメントの牽引役的ポジションの作家のひとりの作品にして「SFマガジン」誌が世界初出、というある意味エポックメイキングな作品。スチームパンクならぬ、"えれくとりかる・パンク"的な何か、と言えるのか。軽めのノリの裏に、実は意外に深いメディアの変遷に対する考察的なものが仕込まれていたりする。

「いっしょに生きよう」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(伊藤典夫 訳)

対象者から見たファースト・コンタクトSF、ということか。ティプトリにしては優しく終わったな、という感じ。このアンソロジーの中では、気持ち明るい方に顔を向けてると思えるあたりもうれしいかもな。

「耳を澄まして」イアン・マクドナルド(古沢義道 訳)

不可解な疫病が元で人類が激減した世界。特殊な共感能力を持った修道士、イノセンスが待ち受ける人物とは…。ナノテクがもたらした災厄を背景に語られる一種の終末SF。

対称(シンメトリー)」グレッグ・イーガン(山岸真 訳)

お、宇宙SFとは珍しいなどと思いながら読み進めていくと、やっぱり最終的にはイーガン印の真骨頂、オレには易々とは理解できそうもない超絶理論が炸裂するハードSF。次元って一体どう言うもんだろうね、というところに斬り込んでいく作品である、というのはかろうじて分かるんだが、その切っ先が何をどう斬ったのか、いまいち分からないまま(^^;

「孤独」アーシュラ・K・ル・グィン(小尾芙佐 訳)

いわゆる"ハイン年代記"に属する作品。ハイン人の子孫が生息していることがわかった惑星に赴いた母子が出会ったのは…。我々が近代的、未開、と分類する文化のそれぞれにそれなりの存在意義はあるものだ、というお話。これはこれでしみじみと深い作品であるとは思うが、容易に正しい答えは見いだせないだろうし、そもそもその場合の正しさって何だ、というところに行き着いて、どうもならん悶々としたものを抱えてしまうことにもなってしまうだろうという。それが書かれた目的なのだろうから、成功しているお話なんだろうとは思うけど、

ちょっと長すぎ。少なくとも自分には。

「ポータルズ・ノンストップ」コニー・ウィリス(大森望 訳)

新たな職に就くためにニューメキシコ州のポータルズという街にやってきたぼく。少しばかり早く着きすぎたものだから、時間つぶしに街の観光名所でも回ってみようと思ったのだが、どうもこの街はその手の名所というものは一つもないらしい。途方に暮れて街中をさまようぼくがとある駐車場で見つけたツアーバスのコースとは…

どちらかといえば重めなお話が並ぶ本書の中で、ほぼ唯一、頭ぼんやりしたままニヤニヤ読んでいける楽しい短編。ただこれは自分がぬるいSF読みだからで、それなりにマニア属性のある人であれば、ニヤニヤしつつも頭の方はフル回転させることになるんだろうな。「宇宙軍団」、「航時軍団」などで知られるジャック・ウィリアムスンへの愛にあふれたユーモアSF。「混沌ホテル」に入っててもおかしくないお話。

「小さき供物」パオロ・バチガルピ(中原尚哉 訳)

いかにもバチガルピらしい、何ともどろどろぐちょぐちょとした未来絵図。イメージが鮮やかな分、「うへえ」感も半端ないっす。

「息吹」テッド・チャン(大森望 訳)

トリは(おそらく)現在のSFシーンの頂点に立つ人の一人、テッド・チャン。読むに当たって注意事項が一つ。

絶対にシラフで読むこと(w。

帰省からの帰り、列車の中で缶ビしこたま飲んだ状態で読んでたときには、一体何が起きているのか全くわからなかった。翌日改めて読み直してみて、ようやくこの短いお話にとてつもないテーマが込められてたことが解ってちょっとゾクッと来るという。すごく雑な喩えをするなら、シャルミレンはどういう経過で滅んだのか、的な。ここにミクロな側では自分で自分を見る、ということ、マクロ側では一つの文明にもたらされるエントロピーの結末とは、というテーマがぶち込まれる。傑作SFをずらりと並べたアンソロジーのラストを飾るにふさわしい作品。

ということで。これはもう、読めばわかるすばらしいアンソロジー。付け足すことなど何一つありませぬ。満点つけてもいいけどグィンが長すぎたとこでちょっぴり減点(^^;

★★★★☆


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