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山本弘 著
創元SF文庫(Kindle Unlimited)
子供の頃、死んだ祖父が残した膨大な蔵書の蔵で遊んでいた僕は、一冊の本のタイトルに何か惹きつけられる物を感じた。そのタイトルは「フェッセンデンの宇宙」。時が経ち、自分のことを僕から俺と呼ぶようになった頃、ビブリオバトルの資料集めに立ち寄った市立図書館で偶然であったクラスメートの女子。地味でぱっとしたところなど何もないその女生徒、伏木空が手にしていたのは少し意外なことにSF小説だった。
帰り道の同じバス、地味だと思っていた空が滔々と語るSFの話の中に、俺はかつて祖父の蔵で目にしたあのタイトルをふたたび聞くことになる…。
自分が大好きな本を一冊、それはどんな本でどこが面白いのか、を5分のディベートで説明、観客がより読みたいと思った本は何なのかを競うのがビブリオバトル。これ自体は本当にあるイベントで、実際著者の山本氏や解説を書いてる池澤春菜嬢も体験しているそうだ。読書離れの進む昨今、面白い本を一冊でも多く紹介し、実際に手にとってもらう助けになってもらおうという試み。その基本的なルールをベースに、ちょっと風変わりなメンバーが集まるBISこと美心国際学園のビブリオバトル部の面々と、新しくメンバーになるSF少女、空とのふれあいから、ビブリオバトルを極私的な目的のために利用しようとする一団とのバトルへとお話は流れていく。
「読んで欲しい本を紹介する」のがメインテーマになるので、本に関する蘊蓄がてんこ盛り。ビブリオバトル部の面々がそれぞれ得意テーマを持っていて、それぞれのテーマで相当突っ込んだ紹介が次々とたたみかけられるわけだけど、本作のメインになるのはSF大好きな空とノンフィクションをメインに読んでいる俺こと埋火武人。特に空のお話が多めになるので次々と紹介されるのはSF小説の数々。なのでそれなりに年だけは取っている上に古本屋なんかをやっているSF者の自分としては、「ああ、まあね」って感じの反応しか返せないのがちょっと残念か。こんなオッサンじゃなく、山本さんが本来想定しているであろう、本書の登場人物たちに近い年齢の人たちならば、また違った反応が返ってくるし、それによってそれらの本たちを「読んでみようかな」と思う人が出てくるのかもしれない。それは大変良いことだと思うよ。
お話はジュヴナイル、ライトノベル、ヤングアダルト小説、なんでもいいけどそういう方面の小説の王道中の王道、いけ好かない奴をぎゃふんと言わせる過程で、淡い恋も進展して、というもので、その点について予想を超えるような物は特にないけれど、ちゃんとまとまっていて悪くない。本来「本の楽しさ」を伝えるためのビブリオバトルを通じていけ好かない奴を懲らしめる、と言う過程は、ビブリオバトルの精神に反するんじゃないかな、ここをちゃんと叱られなかったらいかんよな、なんて思いながら読んでいくと、ちゃんと青二才どもを叱ってくれる大人もいてくれてそこも良かった。ちょっと文章が自分の好みよりは平坦というかのっぺりした感(特に空ちゃんパート)があって、そこはちょっと惜しいな、と思うけど、総じて愛らしい作品に仕上がってはいると思う。
ただし、
最近の山本弘作品に共通する、何かを書きすぎる傾向は本作でもかなり顕著で、今まではそれがいわゆる「トンデモ」方面に対する文章の飽和攻撃だったわけだけど、本書ではそこにプラス、ネットで公開される同種のテキストに対しての反駁になっていて、で、それがなんとも残念なことに、小説として全く整形されていない、いってしまえば山本さんがTwitterやTogetterのコメント欄で書いてる文章と大差ない物が並んでしまっている。結果、基本は愛らしい小説なのに間でしばしば小説世界から引き剥がされ、山本弘のナマの主張を読まされる羽目に陥り、なんとも言えん不快感が募ってくるような造りの小説になってしまっている。非常に残念だと思う。
蛇足でもう一点。先に叱ってくれる大人がいるのは良い、と書きましたがその大人、朝日奈先生がらみの終盤のエピソード。
「あまり薄い連中とつるんでも楽しくないからな。どうせなら濃い話がしたい。そう、たとえば……」先生はちょっと考えて言った。「小金井」
「はい」
「『仮面ライダー響鬼』は全何話だ?」
ミーナは一瞬、ぐっと詰まったように見えた。だが、自信に満ちた声で力強く答えた。
「全二九話です!」
「いい答えだ」先生はにやりと笑った。
うん、アンタとは友だちになれない。
★★☆
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