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2005-07-13 [長年日記]

[Books] 随筆 船 新版 (24:25)

船 : 随筆(和辻春樹/著 野間恒/著) 和辻春樹 著/野間恒 編
装幀 水木泰
NTT出版
ISBN4-87188-451-1 \2300

70年前のモヒカン族

戦前に大阪商船で基本設計者として60隻以上の商船の設計に携わった著者による、船と海、そして工学技術から科学的精神にわたる様々なテーマを扱ったエッセイ集。昭和15年に刊行された本の2度目の改装新版。

商売ものに手をつけるシリーズ。これはまだ店には出してない本なんですけどね。

著者の和辻(辻、は本当は点が二つのしんにゅう)春樹氏は、京大医学部教授の父を持ち、従兄弟に和辻哲郎氏がいるという血統書付きインテリゲンチャ。造船関係としては彼の東大での14期上にあの高名な平賀譲がいる。日本帝国が進展していこうとする時期に、徹底的に科学的で論理的な立場と、それを背景にした自らの美学をゆるがせにしようとしない、若い国の新進技術者の矜持みたいなものがあちこちから香ってきて、さらにそれが昭和初期の人物特有の、文体のキレの良さの魅力みたいなものと相まって実に心地よい。もちろん今となっては、おいおいそりゃもうちょっと環境ってモノを考えた方が良いんじゃないか、みたいなツッコミを入れたくなるところもあるにはあるけれど、何せこのエッセイが書かれたのは70年以上前のことなんである。そのことを考えると、逆に70年という時の流れがありながら、日本人ってのは全然変わってないのだなあ、とちょっとがっくり来てしまうような記述もあったりするのだった。いわゆる「乗客としてのマナー」から見る文化の成熟度、なんてところではそこらの思いは強くなるばかりでありますね。「みんなで渡れば怖くない」的な、なし崩し的横車ってのは日本人からは払拭し得ない特質だったりするのかなあ、と暗澹としてしまう。

もちろんダウナー気分に浸るばかりでなく、ちょっとトリビア的な知識(トン、てのが元は酒樽がその基準になってて、空の樽を叩くとタンタンと音がするところから『トン』になった、ってのはなかなか、『へぇ』ボタンを押したい気分になったですよ)が得られたり、船舶と地上建築の対比があったり、もちろん船舶設計に関する様々なネタがあったり、それから、なんと言うんだろう、戦前の知識人たちが「当然その辺には造詣が無くちゃいけない」と思っていたんじゃないかな、と感じられる漢詩であったり日本の古典に対する知識であったりが、すいすいと出てくるあたりに古き(ってほどでもないですが)日本で物を書く人達の、個人のバックに積み重ねられた一般教養の奥の深さに恐れ入る。和辻氏は専門のモノ書きではないのだよね。にもかかわらず船の話を書くとなったとき、例えば宝船、というお題があれば、そこで江戸の川柳をさらりと引いてみせるあたりの懐の深さを見ると、「ゆとり教育」なんてのは決定的に間違ってるよなあと改めて思ってしまいますな。

先にも書いたとおり、70年の時間差はいろんなところで目に付くし、そこはやむを得ないところもあるのではあるけれど、そこを差し引いて見ても、半世紀以上前の若い(そして遅れた)国にあって、科学技術の進展と文明の成熟を強く望む一人のアーキテクトの主張と、自分がその世界に身を置いているのだという矜持。なかなか心地よい文章でございます。

(★★★)


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