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「医学都市伝説」で知ったネタ。もとはBBC NEWS。認知考古学的に研究していくと、ネアンデルタール人というのは音楽的センスに優れていて楽しいときにはみんな、歌って踊っていたに違いない、今彼らが生きていたら、きっとロックミュージックを気に入ってたに違いない、んだって。んまあネアンデルタールが良い連中だってのは、オレ達みんなとっくに知ってるけどね(w。
それにしても「認知考古学」って、「心理歴史学」とか「ネクシャリズム」とかに通じるものを感じちゃうな。SFっぽくてかっこいいなあ。
J・G・バラード 著/山田和子 訳
カバー装画 石橋優美子
新潮文庫
ISBN4-10-227102-3 \895(税別)
スペインの高級リゾート地帯コスタ・デル・ソルの一角、エストレージャ・デ・マル(海の星)。悠々自適の隠退生活を送る人々の高級住宅が並ぶこの一角で火災が発生する。一瞬にして隠遁生活を送る英国人家族5人を焼死に至らしめた惨事は放火であった。しかもその犯人は弟、フランクであるという。トラベルライターの私、チャールズは弟の無実を信じて陽光まぶしい太陽海岸に赴いたのだが……。
バラードといえばロートルSFファン的には吾妻さんもマンガにした例の、「浜辺、健忘症の男、銹びた自転車」の三題噺が、読むたびに毎回脳裏をよぎってしまうわけだけれど、この作品は「浜辺、取り憑かれた男、焼け跡の邸宅」の三題をベースに、バラードお得意の終末観と、さながら南米の魔術的リアリズム文学のテイストをほどよくかき混ぜた、ひとつ間違ったら「ブンガク」として徹夜で語れるんじゃないかこれ、と思えてしまうような作品に出来上がっている。序盤が少々退屈なのだけど、その退屈さがいつの間にか「読む」事の快感にじわじわと変わっていくのを満喫させていただける逸品。SFとしてはどうよ、というところはあるのだけれど、最初に引いたとおりバラードは件の退屈なシチュエーションを、「新しい種類の退屈なSF」の実例として挙げていたわけで、そういう意味じゃあこの本も根っ子にはSFがあるのだろうと思う。
どこがSFなのか、といえばそれは、「今に警鐘を鳴らす」というところでこれは正しくSFしているのだろうなあと思う。本作の刊行は1996年。この時点でバラードは、「全部あるけど何か足りない」っていう今の西欧社会で生きる人にとっての根源的な不安に、こんな解決策があるかも知れないけど、どうよこの解法は、と意地悪く問いかけてきているのだよね。ここが興味深いし、深いし、ある意味厳しい。SFとしてのワンダーを読者に提供するのじゃなく、SFがやらなくちゃいけない「今のこの状態が未来に対してどういう影響を与えるのか、ちゃんと考えた方が良いんじゃないの?」的なワーニングが本編にぎゅぎゅっと詰め込まれている感じはする。
「現在はもはやそうではない。政治は終った、チャールズ。政治はもう、大衆の想像力に触れることはない。宗教は、人類の進化史において登場するのが早すぎた—宗教が作り上げたシンボルを人々は文字どおりに受け止め、結果、今ではどれもトーテムポールの列と同様に死んでしまった。宗教はもっと遅くなってから登場するべきだったんだ。そう、人間という種族が終焉に近づきはじめた時あたりに。残念なことだが、今では、私たちの精神をかき立てるものは犯罪しかない。私たちは、犯罪という"別世界"—あらゆる事が可能な異世界に魅惑される」
てなあたりはいろんな意味で示唆に富む。これをしてバラードが9/11を透視していたとは思わないけど、でも、世の中が確実にそういう方向に向かっているのだ、という畏れを例の同時多発テロの5年前に既に彼は感じとして受け取っていたと思えるわけで、それは間違いなくSF作家の仕事であるよな、とは思いますわ。ワクワクするワンダーを見せてもらうのもうれしいけど、それと同じくらい重要なのは、未来を予想したらこんなヤバいことがあるかも知れないよ、ってのをエンタティンメントのなかに折り込むのもまたSF作家の仕事だと思うわけで、そういう意味でこの作品、バラードのSF作家らしさ、みたいなモノを存分に味あわせていただけた逸品と言えるかも。SF苦手、って人にも楽しめるお話になってるあたりがすごいよね。
(★★★☆)
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