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ネルソン・デミル 著/白石朗 訳
カバー装画 久保周史
カバーデザイン 岩郷重力
講談社文庫
ISBN978-4-06-276051-5 \1048
ISBN978-4-06-276052-2 \1048
「ナイトフォール」の事件から1年。今も連邦統合テロリスト対策特別機動隊に属するジョン・コーリーは、休日を前に同僚のちょっと不可解な任務の話を聞かされる。テロ、なかんずくイスラーム勢力からのテロに対する警戒活動を行うのが主任務のはずの彼の部署にあって、同僚にして友人の元警官、ハリーが受けた任務は、自国の経済界の大物の監視。イスラームとはなんの関係もなく、強いて言うなら少々極右傾向の思想を持つ人物、と言うプロフィルだけが明らかになっている石油王の監視を、今、なぜ? たまにはこんな軽い仕事もあるのかも、というハリーを送り出したジョンの心には、しかし微妙な引っかかりもまた、残っていたのだが…
「ナイトフォール」のエピソードから1年、件のストーリーと直接的な繋がりはないが、同じ時系列で同じ主人公が活躍するサスペンス。毎回イヤっちゅーほどに軽口を叩きまくる特攻野郎、ジョン・コーリーなんだが、さしもの彼も、自分が玄関に到着した直後、その同じビルの上層に旅客機が突っ込み、瓦礫と、そして人間が降ってくるのを目の当たりにしては、さすがにその舌鋒にも少々翳りが出てしまうのだな、と言うあたりが見えてくるあたりは、"9/11"をテレビの画像で、外国で起きたこととしてしか認識していない自分らと、自分の国がテロの標的であることをかなり強烈な形で認識させられてしまった国の人間とでは、その受け取り方にずいぶん温度差があるのだな、とは感じさせられる。
本書のタイトル「ワイルドファイア」とは、とある条件下で発動する極秘の計画の秘匿名であるのだが、それが実在の何かの翻案であるのか、単なる都市伝説の類であるのかは想像するしかないのだけれども、そういうものがあったときに、それをある程度肯定する立場で、著者であるデミルが話を進めているあたりに、"9/11"ショック、みたいなものがアメリカ国民に与えた衝撃の大きさを改めて感じざるを得ない。デミルはそもそも兵士に対するシンパシィの強い人で、そういう意味ではまあ右寄りというか、どちらかというと保守的なスタンスの作家(元国務長官の息子が書いた小説に推薦文を寄せたぐらいですし)であるという認識もあるんだけど、それにしても、
この商売に身を置いているかぎり、いくら用心しても用心のしすぎということにはならないし、だれが自分たちの友人で、誰が敵かをつねに把握しておく必要もある。それがわからない場合には、銃につねにオイルをさし、実弾を装填して、いつも身近に用意しておくべきだ。
と主人公にいわせてしまう時点で、デミルもパックス・アメリカーナで世の中が動いていけばいいんじゃね? と思ってる人の一人でしかないんだな、と思わされ、そこで少々失望せざるを得ないかな。
お話の本体は、さすがにデミルで退屈はしないんだけど、何人かのキャラクタの造形(っていうか、それをいうならそもそも主人公、コーリーの描写自体がややあやふやになってしまってるんだけど)の突っ込みが甘いところもあったりして、その辺も併せてそこも少々失望。CIAの彼の正体が実は彼だった(すいませんね、わかりにくくて)、ぐらいのアクロバットを期待してたんだけど、構想やバックグラウンドのスケールの大きさが、ストーリーに上手く返ってこなかったような残念感はあるかも。
★★★
宇宙大元帥、野田昌宏さん(mainichi.jp)。わたしゃ多分、SFより先に、第二次世界大戦ブックスの中の一冊、「P51ムスタング」で野田さんの文章に触れていたと思う。どう贔屓目に見てもダメ訳な本のオンパレードな件のシリーズの中にあって、野田さんが訳した本は、そもそもネタが最強のレシプロ戦闘機と言うこともあり、リズムとテンポ、活きのよい文体でムスタングの活躍を存分に楽しませていただいた憶えがある。SFのフィールドで野田さんのお名前を認識したのは、その後でしたわ。
「SFは"絵"だねえ」。まことにもってその通り。人の一生なんて、他人からはあずかり知らぬさまざまな事情もあったのだろうとは思うけれど、諸事情などわかりようもない赤の他人から見たら、まこと"絵"になる一生をお送りになられた、と思える。「銀河乞食軍団」の続きが読めないのは少々悔しいものがあるが、それはそれとして本当に、いろいろなところでありがとうございました。
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●野田昌宏さんのご冥福をこころからお祈りいたします。<br><br>●野田さんの「べらんめぇ」な翻訳がなければ、キャプテン・フューチャーシリーズのあの痛快な魅力はなかったでしょう。
なんだか、続くなぁ、と感じています。<br>トークショーなどで直にお会いしたかった方です。ご冥福をお祈りします。